法華経 現代語訳 59

その時に釈迦牟尼仏は、弥勒菩薩に次のように語られた。
「良いことだ、良いことだ。阿逸多(あいった・弥勒菩薩の別名)よ、よく仏にこの大いなることを尋ねた。あなたたちはまさに共に一心に精進の鎧を着て、堅固なる心を起こすべきである。如来は今、諸仏の智慧、諸仏の自在の神通力、諸仏の師子奮迅の力、諸仏の威猛大勢の力を明らかに述べようと思う。」
その時に世尊は、再びこのことを述べようと、詩偈の形をもって次のように語られた。
「まさに精進して心を統一せよ 私はこのことを説こうと思う 疑うことなかれ 仏の智慧は人の思いを超えている あなたがたは今 信仰の力を出して よく忍耐の心を起こすべきである 昔から今まで聞いたことのない教えを 今みなまさに聞くことができるであろう 私は今あなたがたを安らかに慰める 疑うことなかれ 仏には不実の言葉はない その智慧は測ることができない 仏が得ている第一の教えは 甚だ深く容易に判断することはできない このような教えを今まさに説くべき時である あなたがたは一心に聞きなさい」
その時に世尊は、この詩偈を説き終って、弥勒菩薩に次のように語られた。
「私は今、この大衆の中において、あなたがたに告げる。阿逸多よ。あなたたちが今まで見たことのない、この地より涌き出た数えることができないほどの多くの大いなる菩薩たちは、私がこの娑婆世界において仏の最高の悟りを得てから、この菩薩たちを教化し指導し、その心を整えさせ、仏の悟りを求める心を起こさせたのだ。この多くの菩薩たちは、みなこの娑婆世界の下、この世界の虚空の中において住んでいるのだ。彼らは多くの経典をよく読誦して、考え理解し、正しく記憶している。
阿逸多よ。この多くの良き男子たちは、人々の中にあって多く語ることを願わず、常に静かな場所を願い、努め精進し、いまだに休息したことがない。また、人や天の世界に留まることをしない。常に深い智慧を求めて滞ることはない。また常に諸仏の教えを願って、一心に精進して無上の智慧を求めている。」
その時に世尊は、再びこの内容を述べようと、詩偈の形をもって次のように語られた。
「阿逸多よ あなたは知るべきである この多くの大菩薩は 無数劫の過去より今まで 仏の智慧を修習してきた みな私が教化して 大いなる仏の道への心を起こさせたのだ 彼らは私の子であり この世界に留まっていたのだ 常に欲を捨て去る行ないをして 静かな場所を求め 大衆の雑踏を捨てて 賑やかなことを願わなかった このような者たちは 私の道と教えを学習して 昼夜に常に精進した 仏の道を求めるために 娑婆世界の下方の空中にあって住んでいる 志と念の力が堅固であり 常に智慧を努めて求め あらゆる妙なる教えを説いて 恐れることはない 私は伽耶城(がやじょう)の菩提樹の下に座り 最高の悟りを得て この上ない教えを説き 彼らを教化して 初めて仏の道の心を起こさせた 今はみな退くことのない段階にある すべて必ず仏となるのだ 私は今真実を説く あなたたちは一心に信じなさい 私は久しく遠い過去より今まで 彼らを教化してきたのだ」
その時に、弥勒菩薩と無数の多くの菩薩たちは、心に疑惑を生じさせ、そのようなことは聞いたことがないと怪しんで、次のように思った。
「世尊はどのようにして、短い年月の間に、これらの数えきれないほどの多くの大菩薩を教化して、最高の悟りの境地に向かう道に入れたのだろうか。」
そして仏に次のように申し上げた。
如来である世尊は、王子であられた時、釈迦族の王宮を出で修行され、伽耶城の近くの修行の場に座られ、最高の悟りを得られました。今はそれから四十年ほどが経っています。世尊よ。この短い間にどのようにして、このような大いなる仏のわざを行なわれましたか。仏の大いなる力をもってでしょうか。仏の功徳をもってでしょうか。このような無量の大菩薩たちを教化して、最高の悟りに至らせることができるものなのでしょうか。
世尊よ。この大菩薩たちは、もし人が千万億劫かけて数えたとしても、数えきれるものではありません。その上、彼らは久しく遠い過去より今まで、無量無辺の諸仏の所において、多くの善根を植え、菩薩の道を成就し、常に優れた行を積んできました。世尊よ。このようなことは信じ難いことです。
例えば、顔色美しく、髪も黒い二十五歳の人が、百歳の人を指して、これは私の子です、と言うようなものです。その百歳の人が、またこの若い人を指して、これは私の父です、私たちを育ててくれました、と言うようなものです。
仏も、このような信じ難いことをおっしゃっていることと同じです。仏は、悟りを得られてから、実際、まだ多くの歳月を過ぎていません。しかし、この非常に数多くの菩薩たちは、すでに無量千万億劫において、仏の道のために努め精進し、無量百千万億の三昧(さんまい・いわゆる精神統一)に入り、出て、そして留まり、大いなる神通力を得て、久しく清い行を修し、次第に多くの良い教えを修習し、問答も巧みであり、人の中における宝として、すべての世界において非常に尊い存在です。
今日、世尊は、悟りを得られてから、この菩薩たちを初めて悟りを得ようとする心を起こさせ、教化示導して、最高の悟りに向かわせているとおっしゃった。世尊よ。仏になられてから、長い年月を経ないまでも、このような大きな功徳のことをなさいました。私たちは、仏のさまざまな教え、仏の語られる言葉は、偽りや誤りはなく、仏はすべてのことを知っておられると信じてはいても、悟りを求める心を起こしたばかりの菩薩たちは、仏の滅度の後において、もしこの言葉を聞けば、あるいは信じ受けることをせず、教えを否定するという罪業の因縁を起こしてしまうかも知れません。
ただ世尊よ。願わくはこのことを解き明かし、私たちの疑いを除かれますように。さらに未来世の多くの良き男子たちが、このことを聞くならば、疑いを起こすことはないでしょう。」
その時、弥勒菩薩は、再びこのことを述べようと、詩偈の形をもって次のように語った。
「仏は昔 シャーキャ族から出家され 後に伽耶(ガヤ)の近くの菩提樹に座られ 悟りを得られてから 長い歳月は経っていません この多くの仏の子らは その数を数えることができません 彼らは長い間 仏の道を行じて 神通力と智慧の力を得ています よく菩薩の道を学び 蓮の花が水の中にあって濡れないように この世の教えに染まっていません 地より涌出し すべての者たちに敬う心を起こさせ 世尊の前に留まっています 彼らが仏に教化されたということは 考えることができません なぜ信じることができるでしょうか 仏が悟りを得られたことは それほど昔のことではないにもかかわらず その成就されたことは非常に多いです 願わくはこのために 多くの人々の疑いを除き 真実をわかりやすく説いてください 例えば二十五歳の若い人が 髪白く皺のある人を示して これは私の産んだ子ですと言い 子もこれは私の父ですと言ったとします 父は若く子は老いている この世の人々すべてが信じられないことですが 世尊もまたこれと同じです 悟りを得られてからそれほど歳月は経っていません この多く菩薩たちは 志固く恐れることはありません 数えることができないほどの昔から 菩薩の道を行じています 難問にも巧みに答え その心に恐れるところはなく 忍辱の心も動くことなく その姿はうるわしく威徳があり あらゆる方角の仏が讃嘆するところです 教えをよく説くことができ 人々の中にいることを願わず 常に好んで禅定にあって 仏の道を求めるために 下方の世界の空中に留まっています 私たちは仏からこのことを聞いたので 疑いはありませんが 願わくは仏よ 未来の人々のために このことを説いて理解させてください もしこの経において 疑いを生じて信じることができなければ まさに悪しき世界に堕ちてしまいます 願わくは今 解き明かしてください この無量の菩薩を どのようにして短い間に教化し 悟りを求める心を起こさせ 退くことのない境地に住まわせられたのでしょうか」

 

つづく

 

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