法華経 現代語訳 72

この僧侶の命が終わろうとした時、虚空の中において、威音王仏が昔説かれた法華経の二十千万億の偈をつぶさに聞き、それをすべて受け保ち、そして先に述べた清らかな眼、耳、鼻、舌、身、意識を得た。
(注:この清らかな眼、耳、鼻、舌、身、意識を、原語では「六根清浄(ろっこんしょうじょう)」という。よく登山をしながら「六根清浄、お山は快晴」などと掛け声をすることを聞くが、その場合、この世から離れた大自然の中で、自分も清められる気がする、という意味で言っているのであろう。しかし、本当の「六根清浄」は、この直前の『法師功徳品』で詳細に説かれていた特別な能力を得ることなのである。)
この清らかな六つの器官を得た後、この僧侶はさらに二百万億を一千億倍した数の年齢を延ばし、広く人々のためにこの法華経を説いた。
その時に、この僧侶を軽蔑し、不軽という名前をつけた高慢の僧侶、尼僧、男女の在家信者たちは、この僧侶が大いなる神通力を得、巧みに教えを説く力を得、大いなる悟りの力を得たことを見、その教えを聞いて、みなひれ伏して信じた。
この僧侶であり菩薩である人は、さらに千万億の人々を教化して、最高の悟りを得させた。その命が終わった後は、二千億の仏に会ったが、その仏はみな日月燈明(にちがつとうみょう)という名であった。この人は、その仏の世界において、この法華経を説いた。その因縁によって、またさらに二千億の仏に会ったが、その仏はみな雲自在燈王(うんじざいとうおう)いう名であった。
このように、諸仏の世界の中において、法華経を受け保ち読誦して、多くの僧侶、尼僧、男女の在家信者のためにこの経典を説いたために、常に清らかな眼、耳、鼻、舌、身、意識を得て教えを説き続け、その心には恐れがなかった。
得大勢菩薩よ。この大いなる常不軽菩薩は、このように多くの諸仏を供養し、敬い、拝み、褒めたたえて、多くの良き霊的種を植え、後にまた千万億の仏に会い、またその諸仏の世界の中において、この経典を説いて功徳を成就し、ついに仏となることができた。
得大勢菩薩よ。あなたはどう思うか。その時の常不軽菩薩は誰でもない、この私なのだ。
もし私が過去に経てきた世において、この経を受け保ち読誦し、他の人のために説かなかったならば、速やかに最高の悟りを得ることはできなかった。私が過去の仏のもとで、この経を受け保ち読誦し、人のために説いたために、速やかに最高の悟りを得ることができたのだ。
得大勢菩薩よ。あの時、私を怒りの心をもって軽蔑した僧侶、尼僧、男女の在家信者は、そのために二百億劫もの長い間、仏に会うことがなく、教えを聞くことがなく、僧侶に会うことがなかった。千劫もの間は地獄の底において、大きな苦悩を受けた。その罪を終えて、また常不軽菩薩が最高の悟りのために教化しているところに会ったのだ。
得大勢菩薩よ。あなたはどう思うか。その時この菩薩を軽蔑した人たちは、誰でもない、今この会衆の中にいる、跋陀婆羅(ばっだばら・人の名前)などの五百人の菩薩たち、師子月(ししがつ・人の名前)などの五百人の僧侶たち、尼思仏(にしぶつ・人の名前)などの五百人の在家信者たちであり、彼らはすでに、最高の悟りを求める心においては退くことがなくなっている。
得大勢菩薩よ。まさに知るべきである。この法華経は、多くの大いなる菩薩たちを導き、最高の悟りを得させるのである。このために、多くの大いなる菩薩たちは、如来の滅度の後において、常にまさにこの経を受け保ち読誦し解説し書写すべきなのである。」
(注:常不軽菩薩を軽蔑したために地獄に落ちた人たちも、やがてその「刑期」が終われば、再び常不軽菩薩に会って教えを受け、今や、この法華経が説かれている場所に集っている菩薩や僧侶たちとなっている、という。つまり、今は菩薩であっても、過去はその罪によって地獄に落ちたことがある、というのであるから驚きである。地獄を経験したことのある菩薩様、などということは、一般的にはなかなか想像もつかないのであるが、それだけ、法華経の世界は常識を超えてダイナミックな広がりを持っている、ということができるのである。)
その時に世尊は、再びこの内容を述べようと、詩偈の形をもって次のように語られた。
「過去に仏がいた その名を威音王といった その智恵は優れて無量であり すべての衆生を導かれた 天と人と龍と天的存在たちすべてが 共に供養する仏であった その仏の滅度の後 教えが尽きようとしていた時 一人の菩薩がいた 常不軽といった 僧侶や尼僧や男女の在家信者たちは 彼を非難した 常不軽菩薩は彼らのところに行き 『私はあなたがたを軽蔑しません あなた方は仏の道を行じて まさにみな仏となるでしょう』と言った 人々はこれを聞き 軽蔑して罵ったが 常不軽菩薩はこれを忍耐して受けた 常不軽菩薩は 前世からの因縁が清められ その命が終わる時に臨んで この経を聞くことを得て 六根清浄となった その神通力によって寿命を増し また人々のために 広くこの経を説いた 彼を罵った人々は みなこの菩薩の教化によって 仏の道に入ることができた 常不軽菩薩はその命が終わり 無数の仏に会った その仏の世界でも この経を説いたために 無量の福を得 次第に功徳を積み重ねて 仏の道を成就した その常不軽菩薩は すなわち私である その時に常不軽菩薩から『あなたがたは仏となるでしょう』という言葉を聞いて 彼を罵った僧侶や尼僧や男女の在家信者たちは その因縁をもって 後に無数の仏に会い 今この会衆の中において 菩薩や五百人の衆生 および僧侶や尼僧や男女の在家信者たちとなって 私の前で教えを聞いているのである 私は前世において この多くの人々に勧めて この経の第一の教えを聞かせ 真理を開き示して教え 悟りに入らせ 次の世も次の世も この経典を受け保たせた この法華経は 数えることのできないほどの 何億万劫の時を経て ようやく聞くことができる経典であり 数えることのできないほどの 何億万劫の時を経て ようやく諸仏世尊が この経典を説かれるのである そのために仏の道を歩む者は 仏の滅度の後において この経を聞いて疑いを起こすことがあってはならない まさに一心に広くこの経を説くべきである そうするならば 次の世も次の世も 仏に会うことができ 速やかに仏の道を成就するであろう」

 

つづく

 

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