法華経 現代語訳 79

妙音菩薩は娑婆世界に着き、七宝の台を降り、百千金の値の瓔珞を持って釈迦牟尼仏の所に至り、その足に頭面をつけて礼拝し、瓔珞を捧げて次のように申し上げた。
「世尊よ。浄華宿王智仏は世尊に次のように訪ねておられます。『病少なく悩み少なく、立ち居振る舞いも軽やかで、安楽にお過ごしですか。健康でいらっしゃいますか。世に起こることは忍びやすいでしょうか。衆生は導きやすいでしょうか。貪欲、怒り、愚癡、嫉妬、慢心が多くないでしょうか。父母に孝行せず、僧侶を敬わず、邪見不善の心で感情を収めることができないようなことはないでしょうか。世尊よ。衆生は多くの魔や怨を退けているでしょうか。遠い昔に滅度された多宝如来は、七宝の塔の中におられ、教えを聞いておられるでしょうか。』また、多宝如来に次のように訪ねておられます。『安穏であり悩み少なく、引き続き、娑婆世界におられますか。』世尊よ。私は今、多宝仏を拝し奉ることを願います。世尊よ。私に示し、拝させてください。」
その時に釈迦牟尼仏は、多宝仏に次のように語られた。
「この妙音菩薩は、あなたのお姿を拝することを願っています。」
その時に多宝仏は、妙音菩薩に次のように語られた。
「良いことだ。良いことだ。あなたは釈迦牟尼仏を供養し、および法華経を聞き、ならびに文殊菩薩たちを拝するためによくここに来られた。」
その時に華徳(けとく)菩薩は仏に次のように申し上げた。
「世尊よ。この妙音菩薩は、どのような善根(ぜんこん・良い果報をもたらす行為)を積み、どのような功徳を修して、このような神通力を得たのでしょうか。」
仏は華徳菩薩に次のように語られた。
「過去に仏がおられた。その名を雲雷音王・多陀阿伽度阿羅訶三藐三仏陀(うんらいおんおうただあかどあらかさんみゃくさんぶっだ)という。その国を現一切世間(げんいっさいせけん)と名づける。その劫を喜見(きけん)と名づける。妙音菩薩は一万二千年間、あらゆる伎楽をもって、雲雷音王仏を供養し、ならびに八万四千の七宝の鉢を捧げた。その因縁の果報によって、今、淨華宿王智仏の国に生まれ、この神通力があるのだ。
華徳菩薩よ。あなたはどう思うか。その時に、雲雷音王仏の所に妙音菩薩として、伎楽をもって供養し、宝器を捧げた者は誰でもない、今この大いなる妙音菩薩なのだ。
華徳菩薩よ。この妙音菩薩は、かつて無量の諸仏を供養し、親しく近づいて、長い間徳本を植え、また大河の砂の数に等しい、百千万億をさらに一千億倍した数の仏に従ったのだ。
華徳菩薩よ。あなたはただ妙音菩薩の身体はひとつだと見ているが、この菩薩は、あらゆる姿になって、あらゆるところの衆生のためにこの経典を説くのだ。
ある時は梵天の姿となって、ある時は帝釈天の姿となって、ある時は自在天(じざいてん・ヒンズー教シヴァ神に同じ)の姿となって、ある時は大自在天の姿となって、ある時は天大将軍の姿となって、ある時は毘沙門天の姿となって、ある時は転輪聖王の姿となって、ある時は小王の姿となって、ある時は長者の姿となって、ある時は貿易商人の姿となって、ある時は宰官の姿となって、ある時は婆羅門の姿となって、ある時は僧侶、尼僧、男女の在家信者の姿となって、ある時は長者や貿易商人の婦人の姿となって、ある時は宰官の婦人の姿となって、ある時は婆羅門の婦人の姿となって、ある時は男女の子供の姿となって、ある時は天龍八部衆の姿となって、この経を説く。そのようにして、地獄、餓鬼、畜生、および多くの仏の道に妨げになるところにいる者たちを救済する。さらに王の宮殿においては、変じて女の身となってこの経を説く。
華徳菩薩よ。この妙音菩薩は、娑婆世界の多くの衆生を救い守る者である。この妙音菩薩はこのようにあらゆる姿になって、この娑婆国土に現われ、多くの衆生のためにこの経典を説くのだ。神通力、変化、智慧においては衰えることはない。この菩薩は、その智慧をもって明らかに娑婆世界を照らして衆生に知られ、またあらゆる方角の大河の砂の数ほどの世界の中においてもそうなのである。
また、声聞の姿によって導かれる者には、声聞の姿を現わして教えを説き、辟支仏の姿によって導かれる者には、辟支仏の姿を現わして教えを説き、菩薩の姿によって導かれる者には、菩薩の姿を現わして教えを説き、仏の姿によって導かれる者には、仏の姿を現わして教えを説く。
このように、さまざまな姿をもって、導くべき者に従って姿を現わすのだ。さらに、滅度することをもって導くべきものには、滅度の姿を現わすのだ。華徳菩薩よ。大いなる妙音菩は、このように大いなる神通力や智慧の力を成就している。
その時に華徳菩薩は、仏に次のように申し上げた。
「世尊よ。この妙音菩薩は、深く善根を植えています。世尊よ。この菩薩はどのような三昧(=瞑想)の中にあって、このように姿を変えて衆生を導くのでしょうか。」
仏は華徳菩薩に次のように語られた。
「良き男子よ。この三昧を現一切色身と名づける。妙音菩薩はこの三昧の中にあって、このように無量の衆生を導くのだ。」
仏がこの『妙音菩薩品』を説かれた時、妙音菩薩と共に来た八万四千の菩薩たちは、みな現一切色身三昧を得、この娑婆世界の無量の菩薩もまた、この三昧および陀羅尼を得た。
その時に大いなる妙音菩薩は、釈迦牟尼仏および多宝仏塔を供養し終わって、本土に帰った。その時通過したあらゆる国は、六通りに震動して宝の蓮華を降らせ、百千万億のあらゆる伎楽を奏でた。
妙音菩薩は本国に着いて、共に従った八万四千の菩薩たちと、浄華宿王智仏のところに行き、仏に次のように申し上げた。
「世尊よ。私は娑婆世界に行き、衆生を教え、釈迦牟尼仏にお会いし、および多宝仏塔にお会いして礼拝供養し、また教えの王子である文殊菩薩に会い、および薬王菩薩、得勤精進力菩薩、勇施菩薩等に会いました。また、この八万四千の菩薩が現一切色身三昧を得るように導きました。
仏がこの『妙音菩薩来往品』(=『妙音菩薩品』)を説かれた時、四万二千の天子たちは、この世に存在に対する悟りを得、華徳菩薩は法華三昧を得た。

 

つづく

 

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