法華経 現代語訳 84

妙法蓮華経 妙荘厳王本事品 第二十七

その時に仏は、大衆に次のように語られた。
「測ることも想像することもできないほどの遠い過去に、仏がいた。その名を雲雷音宿王華智多陀阿伽度阿羅訶三藐三仏陀(うんらいしゅくおうけちただあかどあらかさんみゃくさんぶっだ)という。その仏の教えを受ける者たちの中に王がいた。その名を妙荘厳(みょうしょうごん)という。その王の夫人の名を浄徳(じょうとく)という。二人の子供がいて、ひとりを浄蔵(じょうぞう)と名づけ、もうひとりを浄眼(じょうげん)と名づける。
その二人の子には、大いなる神通力、福徳智恵があって、長い間、菩薩の行なうべき道を修した。いわゆる六波羅蜜と方便、慈悲喜捨、そして三十七の道(注:これらは菩薩が行なうべき道として代表的なものである。煩瑣を避けてここでは項目を挙げるのみとする)を、みなことごとく明らかに成就した。また、菩薩のあらゆる三昧(注:ここで七種類の三昧の名称だけが挙げられているが、煩瑣を避けて省略した)において、すべて成就した。
その時その仏は、妙荘厳王を導くため、および衆生を憐れまれ、この法華経を説かれた。
その時に浄蔵と浄眼の二人の子は、その母のところに行き、合掌して次のように語った。
『願わくは母上。雲雷音宿王華智仏のところに礼拝するために行かせてください。私たちは従い仕え、供養し礼拝しようと思います。なぜならば、この仏は、すべての天と人々の中において、法華経を説かれています。私たちも聞くことを願います。』
母は子に次のように語った。
『あなたの父は、外道(げどう・仏教以外の宗教)を信じ受け入れ、深く婆羅門の教えに執着しています。あなたがたは父のところに行き、共に行くようにしなさい。』
浄蔵と浄眼は、合掌して母に次のように語った。
『私たちは教えの王である仏の子です。しかし、他の宗教の家に生まれました。』
母は子に次のように語った。
『あなたたちは、あなたたちの父を気の毒に思い、そのために神変(じんぺん・神通力による変化)を現わすべきです。もし父がそれを見るならば、心は必ず清らかとなるでしょう。そうなれば、私たちの仏のところに行くことを聞き入れるでしょう。』
そこで二人の子は、その父を思って、非常に高く虚空に上り、そこに留まってあらゆる神通力による変化を現わした。虚空の中において行住坐臥し、身の上より水を出し、身の下より火を出し、身の下より水を出し、身の上より火を出し、あるいは身を大きくして虚空の中に満ち、また身を小さくしてまた大きくし、空中において消え、また突然地面に姿を現わした。そして、地面の中に水がしみこむように入り、また水の上を歩いた。このようなあらゆる神変を現わして、その父である王の心を清くして信じ受け入れるようにした。
その時に父は、子の大いなる神通力を見て、このようなことは今まで見たことがないと大変喜んで、合掌して子に向かって次のように語った。
『あなたたちの師は誰であるか、あなたたちは誰の弟子か。』
二人の子は次のように語った。
『大王よ。あの雲雷音宿王華智仏が、今、七宝の菩提樹下の法座の上に座っておられます。すべての世界の天や人々の中で、広く法華経を説いておられます。この仏が、私たちの師です。私たちはこの仏の弟子です。』
父は子に次のように語った。
『私も今、あなたたちの師に会いたいと思う。共に行こうではないか。』
そこで二人の子は、空中より下りて、母のところに行き、合掌して次のように語った。
『王である父は、今信じ受け入れ、最高の悟りを求める心を起こす条件を満たされました。私たちは父のために、すでに仏の教えの中でなすべきことをなし終えました。願わくは母上。あの仏のところにおいて、出家して道を修することを許してください。』
その時に二人の子は、再びこの内容を述べようと、詩偈の形をもって次のように語った。
『願わくは母よ 私たちが出家して僧侶となることを許したまえ 諸仏にお会いすることは非常に難しいことです 私たちは仏に従って学ぶことを願います 三千年に一度咲くという花のように 仏にお会いすることはこれよりも難しいことです 仏に会うことを妨げることから脱することもまた難しいことです 願わくは私たちの出家をお許しください』
母は次のように語った。
『あなたたちの出家を許します。なぜならば、仏に会うことは非常に難しいからです。』
そこで二人の子は、その父母に次のように語った。
『父上、母上、ありがとうございます。願わくは共に、雲雷音宿王華智仏のところに行き、親しく供養してください。なぜなら、仏に会うことは難しいからです。三千年に一度咲く花のように、また片目の亀が大海に浮いた木の穴に顔を入れるように、非常に稀なことです。しかし、私たちは前世において植えられた福が深く厚く、仏の教えに会うことができました。このために、父上、母上よ。私たちを許して出家させてください。なぜならば、諸仏に会うことは難しく、また、仏がおられる時代に遭遇することも難しいからです。』
この時すでに、妙荘厳王に仕える八万四干の人々は、みなこの法華経を受け保つにふさわしい人々であった。子の浄眼はまさに菩薩にふさわしく、すでに法華三昧を成就していた。またもう一人の子である浄蔵はまさに菩薩にふさわしく、すでに無量百干万億劫において、離諸悪趣三昧(りしょあくしゅざんまい)を成就していた。すべての人々が、あらゆる悪の世界から離れることを願ってのことであった。そしてこの王の夫人は、諸仏集三昧(しょぶつしゅうざんまい)を得て、よく諸仏の秘密の教えを知ることに至っていた。
このように、二人の子は、方便の力をもって、その父が仏の教えを信じ受けることを願うように導いた。

 

つづく

 

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