千手千眼観世音菩薩広大円満無礙大悲心陀羅尼経(前半のみ) その2

また観世音菩薩は、仏に次のように申し上げた。
「世尊よ。あらゆる人や天が大悲心呪を読誦し保つならば、十五種類の善い生を得ることができます。そして、十五種類の悪い死を受けません。その悪い死とは次の通りです。一つ、飢え苦しみによって死ぬことはない。二つ、捕らえられ拷問で死ぬことはない。三つ、怨敵によって殺されない。四つ、戦争の戦いの中で死ぬことはない。五つ、野の獣によって殺されない。六つ、毒蛇やサソリにかまれて死ぬことはない。七つ、洪水や火事で死ぬことはない。八つ、毒薬の中毒で死ぬことはない。九つ、虫の害によって死ぬことはない。十、狂乱して自我を失って死ぬことはない。十一、山や木や崖から落ちて死ぬことはない。十二、悪しき者の呪いによって死ぬことはない。十三、邪神悪鬼によって殺されることはない。十四、悪い病気に侵されて死ぬことはない。十五、自殺することはない。大悲心呪を読誦し保つ者は、このような十五種類の悪しき死を受けることはありません。
また、十五種類の善い生を得るとは次の通りです。一つ、その生において善い王に出会う。二つ、常に善い国に生まれる。三つ、常に善い機会に恵まれる。四つ、常に善い友に会う。五つ、五体満足である。六つ、悟りを求める心が純粋に成熟している。七つ、戒律を犯さない。八つ、付き従うすべての従者は恩義を感じており従順である。九つ、財産をはじめ生活物資などすべてに満ち足りている。十、常に他人から尊敬される。十一、財産を他人に奪われることはない。十二、求めるところはすべてかなう。十三、龍天善神が常に守る。十四、その生において仏を見て教えを聞く。十五、正しい教えを聞いてその深い意義を悟る。大悲心陀羅尼を読誦し保つ者は、このような十五種類の善い生を得ることができます。すべての天や人よ。まさに常に読誦し保ち、怠ることがないようにせよ」。
観世音菩薩はこのように語り、大衆の前において、合掌し正面にあって、あらゆる衆生に対して大悲心を起こし、顔を上げて微笑み、広大円満無礙大悲心大陀羅尼の神妙の章句を説いた。陀羅尼は次の通りである。

(注:陀羅尼は本来意味のある言葉であるが、唱えることに意義があるのであり、意味を考える必要はないため、ここにひらがなによって発音を記す。原本にも意味は記されていない。なお、この陀羅尼は天台宗真言宗禅宗などにおいて唱えられるが、各宗派によって微妙に発音が異なる。ここでは天台宗の読み方によって記す。句点は訳者の判断により入れた。)

「なもあらたんなたらやあや。なもありゃあばろきていしんばらや。ぼうじさたばやまかさたばや。まかきゃろにきゃやおんさるば。らばえいしゅたんなたしゃ。なもしきりたばいもう。ありゃあばろきていしばら。りょうだばなもならきんじ。けいりまかばたしゃめい。さるばあたずしゅぼうあぜいよう。さるばさたなまばぎゃまばどず。たにゃたおん。あばろけいろきゃていきゃらてい。いけいりまかぼうじ。さたばさるばさるば。まらまらまけいまけいりだよう。くろくろきゃらぼう。どろどろばじゃやてい。まかばじゃやてい。だらだらじりにしんばらや。しゃらしゃらままばっまらぼくていれい。いけいいけいしっだしっだ。あらさんはらしゃりばしゃばさん。はらしゃやころころまらころころ。けいりさらさらしっりしっり。そろそろぼうじやぼうじや。ぼうだやぼうだやみていりや。ならきんじだりしにな。はやまなそわか。しっだやそわか。まかしっだやそわか。しっだゆげいしんばらやそわか。ならきんじそわか。まらならそわか。しっらそうかぼきゃやそわか。しゃばまかかしったやそわか。しゃきゃらかしったやそわか。はんだまかしったやそわか。ならきんじばぎゃらやそわか。まばりしょうぎゃらやそわか。なもあらたんなたらやあや。なもありゃあばろきていしばらやそわか。しっでんとまんだらはだやそわか。」

観世音菩薩がこの呪を説き終わると、大地は六種に震動し、天は宝華を降らせ、それらが乱れ落ちて来た。あらゆる方角の諸仏はみな歓喜した。天魔や外道(げどう・誤った教えの他の宗教の者)は恐れおののいた。すべての大衆はそれぞれの悟りの結果である果証、須陀洹果、斯陀含果、阿那含果、阿羅漢果、あるいは悟りへの段階である一地二地三地四地五地そして十地を得た。また無量の衆生は悟りを求める心を起こした。

その時、大梵天王(だいぼんてんのう)は座より立って、衣服を整え合掌し敬って、観世音菩薩に次のように言った。
「良いことです、大士よ。私は昔より今まで、無量の仏の法会を経験し、あらゆる教え、あらゆる陀羅尼を聞きましたが、未だかつて、このような無礙大悲心大悲陀羅尼神妙章句が説かれたことは聞いたことがありません。ただ願わくは大士よ。私のために、この陀羅尼の姿形を説いてください。私をはじめ、大衆は聞くことを願っています」。
観世音菩薩は梵王に次のように言った。
「あなたは方便によって、すべての衆生に利益を与えようとこの質問をしました。あなたは今、よく聞きなさい。私はあなたがたのために略して説きましょう」。
また観世音菩薩は言った。
大慈悲心は平等心です。無為(むい:なそうとしないでなす)心です。無染著(むせんじゃく:執着がない)心です。空観(くうがん:空を観じる)心です。恭敬(くぎょう:敬い崇める)心です。卑下(ひげ:へりくだる)心です。無雑乱心です。無見取(むけんしゅ:ものごとをあると思わない)心です。無上菩提(むじょうぼだい:この上内悟り)心です。まさに知るべきです。これらの心はすなわち陀羅尼の姿形です。あなたがたはまさに、これによって修行しなさい」。
大梵王は言った。
「私と大衆は、今はじめてこの陀羅尼の姿形を知りました。今からこれを受け保ち、決して忘失しません」。
観世音菩薩は言った。
「善き男子や善き女人がいて、この神呪を読誦し保つ者は、広大な菩提心を発して、誓ってすべての衆生を悟りに導き、その身に清らかな戒めを持ち、あらゆる衆生に対して平等心を起こし、常にこの呪を読誦して絶えることがないようにしなさい。清らかな部屋に住んで、沐浴して身を清め、清らかな服を着て、旗をかけ、灯をつけ、香華や百味の飲食をもってこの陀羅尼を供養しなさい。心を一つに制して別の思いを持つことがないようにしなさい。正しく読誦し保つならば、その時まさに、日光菩薩(にっこうぼさつ)と月光菩薩(がっこうぼさつ)が、無量の神仙と共に来て、利益(りやく)を証し、しるしを現わすでしょう。私はまさにその時、千眼をもって照らし見て、千手をもって守り導きます。また、この世のあらゆる書物に記されていることは、すべて受け保つことになります。すべての他の宗教の教えや術、バラモン教聖典にも通じるでしょう。この神呪を読誦し保つ者は、この世の八万四千種類の病、すべて治癒されないことはありません。またすべての鬼神を抑え、諸天魔を下し、あらゆる他の宗教を制するでしょう。山野にあって、経典を読誦し座禅する時、あらゆる山の精霊や魑魅魍魎(ちみもうりょう)や鬼神たちが来て心が乱されるならば、この呪を一遍読誦すれば、このあらゆる鬼神たちは、みなことごとく縛られるでしょう。正しい教えに従って読誦し保ち、あらゆる衆生に対して慈悲心を起こす者には、私はまさにその時、すべての善神や龍王や執金剛神(しゅうこんごうしん:仏教の護神)に命じて常に護衛させ、その側を離れないようにさせ、自分の瞳や自分の命を守るように守らせましょう。

 

つづく

 

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