大乗経典と論書の現代語訳と解説

経論を通して霊的真理を知る

千手千眼観世音菩薩広大円満無礙大悲心陀羅尼経(前半のみ) その4

その時、観世音菩薩は梵天に次のように言った。
「この呪を五遍読誦し、五色のひもをもって縄を作り、二十一遍呪して二十一の縄を結び付けて頭に掛けなさい。この陀羅尼は、大河の砂の数を九十九億倍した数の過去の諸仏の所説です。その諸仏はさまざまな修行する人々のために、この陀羅尼を説きました。そのさまざまな修行とは次の通りです。六波羅蜜(ろくはらみつ・大乗の菩薩の修行すべき六つの項目)を修行し、未だ満了していない者には速やかに満了させるために。未だ悟りを求める心を起こしていない者には、速やかに起こさせるために。声聞(しょうもん・釈迦の弟子とその系統にある者)の人で、未だ声聞の悟りを開いていない者には、速やかに悟りを開かせるために。三千大千世界(=すべての世界)の内にいる諸神仙人で、未だ最高の悟りを求める心を起こしていない者には、速やかに起こさせるために。あらゆる衆生で、未だ大乗の信心が根づいていない者には、この陀羅尼の威神力によって、その大乗の教えを芽生えさせ、成長させるために。私は、方便と慈悲の力をもって、それらをみな成就させましょう。三千大千世界の暗闇にある地獄、餓鬼、畜生の三つの悪しき道にいる衆生は、この呪を聞いて、みな苦しみを離れることができるでしょう。あらゆる菩薩で、未だ初住(しょじゅう・菩薩の最初の段階)に至っていない者がいれば、速やかにそれを得させるために。さらに十住地(じゅうじゅうち・仏に至る高い段階)を得させるために。さらに仏の位に至らせるために。そうなれば、自然に三十二相八十隨形好(仏にのみ具わている特徴)を成就するでしょう。声聞の人で、この陀羅尼を一度耳にする者、この陀羅尼を修行し書写する者、純粋な心をもって教えの通りに修行する者は、四沙門果(ししゃもんか・声聞が得る四つの悟りの結果)を求めずして自然と得るでしょう。三千大千世界の内の山河や、石壁に囲まれた四つの大海の水をすべて沸騰させ、また須弥山(しゅみせん・この世の真ん中にある非常に高い山)および鉄囲山(てっちせん・この世の端にある鉄でできた山)などをすべて揺り動かし、またそれらを粉々に砕き、その中にいるすべての衆生に、最高の悟りを求める心を起こさせましょう。
あらゆる衆生の中で、この現世において求め願う者は、二十一日間において清らかな戒めを保ち、この陀羅尼を読誦すれば、その所願は必ず果たされましょう。生死の際より生死の際に至るまでのすべての悪業は、ことごとくみな滅び尽くされるでしょう。三千大千世界の内のすべての諸仏菩薩、梵天帝釈天、四天王、神仙龍王は、すべてみなこのことを証しています。
もしあらゆる人や天が、この陀羅尼を読誦し保つならば、その人がもし河川や大海の中で沐浴する時、その同じ水をその身に浴びたすべての人は、すべての悪業重罪もすべてみな消滅し、淨土に往生して蓮華の中に生まれ、再びあらゆる肉体の身を受けることはありません。ましてやこの陀羅尼を受け保ち読誦する者はどれほどでしょうか。
もし、この陀羅尼を読誦し保つ者が道路を歩いていて、大風が来てその人の体や髪の毛や衣服を吹き、さらにその風があらゆる衆生の方に吹き下り、その人の身を巡った風を身に受けることができた者は、すべての重罪悪業がすべて滅ぼし尽くされ、さらに地獄、餓鬼、畜生の三つの悪しき世界には生まれ変わることなく、常に仏の前に生まれるようになります。まさに知るべきです。この陀羅尼を受け保つ者の福徳果報は不可思議です。この陀羅尼を読誦し保つ者の口の中から出る言葉や音声は、それを聞く者が、善人であっても悪人であっても、またはすべての天魔外道天龍鬼神であっても、彼らにはみな清らかな教えの声に聞こえるでしょう。そのため、みなその人に対して仰いで尊敬する心を起こし、仏のように敬うでしょう。
この陀羅尼を読誦し保つ者は、まさに知るべきです。この人は『仏身蔵(ぶっしんぞう)』です。大河の砂の数を九十九億倍した数の諸仏が愛するからです。まさに知るべきです。この人は『光明身(こうみょうしん)』です。すべての如来の光が照らすからです。まさに知るべきです。この人は『慈悲蔵(じひぞう)』です。常に陀羅尼をもって衆生を救うからです。まさに知るべきです。この人は『妙法蔵(にょほうぞう)』です。すべてのあらゆる陀羅尼の門を普く摂取するからです。まさに知るべきです。この人は『禅定蔵(ぜんじょうぞう)』です。百千の三昧が常に現前しているからです。まさに知るべきです。この人は『虚空蔵(こくぞう)』です。常に空の智慧をもって衆生を見るからです。まさに知るべきです。この人は『無畏蔵(むいぞう)』です。龍、天、善神が常に護持するからです。まさに知るべきです。この人は『妙語蔵(みょうごぞう)』です。口の中の陀羅尼の音声が断絶することがないためです。まさに知るべきです。この人は『常住蔵(じょうじゅうぞう)』です。戦争と疫病と飢饉が絶えない悪しき今の時代も、その人を滅ぼすことはできないからです。まさに知るべきです。この人は『解脱蔵(げだつぞう)』です。天魔外道もこの人を縛っておくことはできないからです。まさに知るべきです。この人は『薬王蔵(やくおうぞう)』です。常に陀羅尼をもって衆生の病を癒すためです。まさに知るべきです。この人は『神通蔵(じんつうぞう)』です。あらゆる仏の国土を自在に巡ることができるためです。
この人の功徳は、いくら讃嘆しても尽きません。善き男子よ。もしまたある人がいて、世間の苦しみを厭(いと)い、長い年月の平安を求めるならば、静かな場所にあって、その環境を清らかにして、陀羅尼にふさわしい法衣を着て、水を飲むにしても、食べ物を食べるにしても、香を焚くにしても、薬を服するにしても、すべてこの陀羅尼を百八遍となえてから服せば、必ず長い寿命を得るでしょう。
もし教えの通りに場所を清めて、教えに従ってこの陀羅尼を受け保つならば、すべてが成就します。その場所を清める方法(結界法・けっかいほう)とは、次の通りです。刀を取って、陀羅尼を二十一遍唱え、地面を区切って聖なる場所とし、清らかな水を取って二十一遍唱え、四方に撒いて聖なる場所とし、白芥子を取って二十一遍唱え、四方に撒いて聖なる場所とし、想念が示すところをもって聖なる場所とし、清らかな灰を取って二十一遍唱えて聖なる場所とし、五色のひもを二十一遍唱えて、四辺を囲んで聖なる場所とすれば完成です。このように、教えに従って陀羅尼を受け保つならば、自然に成就します。
この陀羅尼の文字だけを聞く者ですら、無量劫における生死の重罪を滅ぼすことができます。ましてや、読誦し保つ者はなおさらです。
もしこの神呪を読誦することができる者は、まさに知るべきです。この人はすでにかつて、無量の諸仏を供養して、広く善根(ぜんこん・良い結果を生む原因)を植えたのです。
もしある人が、あらゆる衆生のために、その苦難を除こうとして、教えの通りに読誦し保つ者は、まさに知るべきです。その人はすなわち、大悲をそなえている者です。成仏は遠い先のことではありません。
ある人が、出会うすべての衆生のために陀羅尼を読誦し、彼らの耳に聞かせ、悟りの因とするならば、この人の功徳は無量無辺であり、いくら讃嘆しても尽くすことはできません。
もしある人が、誠を尽くし心を用い、その身に清らかな戒めを保ち、すべての衆生のために、過去の世の罪を懺悔し、また自らも無量劫以来のさまざまな悪業を懺謝し、口の中でこの陀羅尼を滑らかに呪し、その声を絶やさない者は、四沙門果(ししゃもんか・声聞の高い位)の悟りを、その生の内に得ることができるでしょう。また、能力が優れていて、智慧や方便をそなえた者は、十地の位(菩薩の高い位)を得ることは難しくないでしょう。ましてや、この世の細々とした福の報いを得ることはなおさらのことです。その求める願いを果たせないことなどありません。
もし、鬼(この場合、死者の霊と考えられる)を仕える者としようとするならば、野に捨てられた髑髏を取って洗い清め、千手観音の像の前において壇場を設け、あらゆる香や華や飮食をもってこれを祭りなさい。毎日、このようにして七日が過ぎれば、その鬼は必ず来て身を現わし、その人に従って仕えるでしょう。
この陀羅尼を唱える者は菩薩であり、その大悲願力は深重であるために、また、この陀羅尼の威神は広大であるために、四天王でさえ従うでしょう。その場合、陀羅尼を呪して白檀(びゃくだん・高価な香木)の香を焚きなさい」。

 

つづく

 

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