仏頂尊勝陀羅尼経 その1

仏頂尊勝陀羅尼経

鬮賓国(けいひんこく)の沙門(しゃもん=僧侶)仏陀波利(ぶっだはり)、詔(みことのり)により訳す


(注:『仏頂尊勝陀羅尼経(ぶっちょうそんしょうだらにきょう)』は、『仏頂尊勝陀羅尼(ぶっちょうそんしょうだらに)』について述べられた経典である。この陀羅尼は、『一切如來心秘密全身舍利寶篋印陀羅尼(いっさいにょらいしんひみつぜんしんしゃりほうきょういんだらに)』、『千手千眼観世音菩薩広大円満無礙大悲心陀羅尼(せんじゅせんげんかんぜおんぼさつこうだいえんまんむげだいひしんだらに)』と共に、「三陀羅尼」と呼ばれるほど、代表的な陀羅尼である)。

 

このように私は聞いた。
ある時、仏は舎衛国(しゃえいこく・釈迦の布教の拠点の一つ)の祇園精舎(ぎおんしょうじゃ・釈迦の教団の代表的な道場)において、大いなる僧侶たち千二百五十人、および多くの大いなる菩薩たち一万二千人と共におられた。
その時、三十三天(さんじゅうさんてん・最も高いところにある帝釈天を主とする天)の善法堂に、善住(ぜんじゅう)という天子がいた。多くの大いなる天子と共に園に行き来し、また大いなる天子と共に尊敬を受けていた。さらに天女に取り囲まれて喜び遊び、あらゆる音楽を聴きながら、楽しく過ごしていた。
ある夜、善住天子はある声が次のように言うのを聞いた。
「善住天子よ。あなたは七日後に命が終わるであろう。命が終わってから、人間の世に動物として七回生まれ変わり、そしてその後、地獄に堕ち、地獄から出て幸いに人間に生まれ変わるが、貧しい身分の両目がない者となって母の胎から出るであろう」。


(注:大乗仏教の輪廻転生においては、人間の世界の上にある天の世界も、あくまでも生まれ変わる輪の中のひとつである。したがって、その徳を使い果たせば、天に生まれ変わったとしても、その後、地獄にも堕ち、人間の世界にまた生まれ変わる可能性がある。このように、この世において、無事、子供たちを独立させ、贅沢はできないまでも、死ぬまでの資金が手元にあり、後は平穏無事な老後を過ごせるとしても、もうその徳は使い果たしている可能性があり、死後はとんでもない苦しみの世界に生まれ変わるかも知れないのである。このため、誰であっても、死ぬまでに、死後の世界のことを解決しなければならないのである)。

善住天子はその声を聴いて、驚き、身の毛がよだち、もう楽しむことなどできなくなった。すぐに帝釈天のところに行ったが、嘆き悲しみと恐怖でどうすることもできなかった。そして帝釈天の両足に頭をつけて拝し、帝釈天に次のように言った。
「どうかお聞きください。私は天女に囲まれて楽しんでいましたが、次のような声を聞きました。『善住天子よ。七日後にあなたは死ぬ。死んで後、人間の世界において、七回動物の身となり、それが終わって地獄に堕ち、地獄から出て幸い人間の身となるが、貧しい家に生まれて両目がないであろう』。帝釈天様。私はどうやってこの苦しみから免れることができるでしょうか」。
その時、帝釈天は善住天子の言葉を聞き、非常に驚き、次のように思った。
「この善住天子はどうして七回も悪しき世界に生まれ変わらねばならないのであろうか」。
そして、帝釈天はすぐに静かに禅定(ぜんじょう・瞑想のこと)に入り、明らかにこのことについて観察したところ、やはり間違いなく善住天子は七回悪しき身とならねばならないことを知った。それらは豚、犬、野狐、猿、大蛇、烏、鷲であって、いろいろな汚い物を食べていた。そして帝釈天は、善住天子がこのように七回悪しき身に堕ちることを見て悩み、どうにかして彼を助けたいと思ったが、どうすることもできなかった。
「これは誰かに頼らねばならない。まさに、如来のみが彼の苦しみから救ってくださるであろう」。
さっそく帝釈天は朝のうちに、さまざまな花や塗香や抹香をもって、さらには荘厳な妙なる天の衣をもって、祇園精舎の世尊(せそん・仏のこと)のところに行った。そして、仏の足に頭をつけて拝し、右回りに七周した。さらに仏の前で盛大に供養をして、仏に跪いて次のように申し上げた。
「世尊よ。善住天子はなぜ七回も動物のような悪しき身を受けなければならないのでしょうか」。
そしてそのことを詳しく説明した。
その時、如来はその頭の上からあらゆる光を放ち、あらゆるすべての世界を照らし尽くした。そしてその光は戻って来て仏の周りを三度回り、仏の口から入った。
仏は微笑んで帝釈天に言った。
帝釈天よ。『如来仏頂尊勝(にょらいぶっしょうそんしょう)』という陀羅尼がある。これはすべての悪しき働きを清め、すべての生まれ変わりの苦悩を清め除き、またすべての地獄、餓鬼、畜生の苦しみを清め除き、またすべての地獄を破り、良い世界に生まれ変わらせる。
帝釈天よ。この仏頂尊勝陀羅尼を人が一回でも聞くならば、過去の世で作ったすべての地獄に堕ちる原因となる悪業はみなすべて消滅し、まさに清らかな身を得ることができる。さらに、生まれ変わった先の世界でも忘れることはないであろう。仏の世界から仏の世界に至り、また天から天へ至り、三十三天を遍歴して、生まれ変わった先々で忘れることがないであろう。
帝釈天よ。もし人の命がまさに終わろうとする時、わずかであってもこの陀羅尼を思うならば、その寿命を延ばすことができるであろう。また体も言葉も心も清らかになり、その体に苦痛がなく、その祝福によって、生まれ変わった先々で安穏に過ごすことができるであろう。すべての如来に見守られ、すべての天や善神たちが護衛し、人から敬われる者となるであろう。悪しき障害は消滅して、すべての菩薩たちは心を同じくして共にいるであろう。
帝釈天よ。人がもしこの陀羅尼を少しでも読誦するならば、すべての地獄、畜生、閻魔王の世界、餓鬼などの苦しみは破壊され消滅して、跡形もなくなるであろう。あらゆる仏の世界、および天の宮殿、さらにすべての菩薩の住むところの門から自由に出入りできるであろう」。

 

つづく

 

仏頂尊勝陀羅尼