大乗経典と論書の現代語訳と解説

経論を通して霊的真理を知る

一切如來心秘密全身舍利寶篋印陀羅尼経 その1

一切如來心祕密全身舍利寶篋印陀羅尼経

 

大廣智大興善寺三藏沙門 不空(ふくう) 詔(みことのり)により訳す

 

(注:『一切如來心秘密全身舍利寶篋印陀羅尼経(いっさいにょらいしんひみつぜんしんしゃりほうきょういんだらにきょう)』は、『一切如來心秘密全身舍利寶篋印陀羅尼(いっさいにょらいしんひみつぜんしんしゃりほうきょういんだらに)』について述べられた経典である。この陀羅尼は、『仏頂尊勝陀羅尼(ぶっちょうそんしょうだらに)』、『千手千眼観世音菩薩広大円満無礙大悲心陀羅尼(せんじゅせんげんかんぜおんぼさつこうだいえんまんむげだいひしんだらに)』と共に、「三陀羅尼」と呼ばれるほど、代表的な陀羅尼である)。

 

このように私は聞いた。
ある時、仏は摩伽陀国(まがだこく)の無垢園(むくえん)の宝光明池(ほうこうみょうち)の中におられた。大いなる菩薩たち、および大いなる声聞(しょうもん・釈迦の弟子たち)の僧侶たち、そして天竜八部衆(てんりゅうはちぶしゅう・人や天やその他の霊的存在の総称)という無量百千もの衆生に前後を取り囲まれておられた。
その時に大衆の中に一人の大いなる婆羅門(ばらもん・本来の意味は、インドのバラモン教の人を指し、バラモン階級の人のことである。しかし仏典では、単に身分の高い高貴な人という意味でも使われており、この経典では後者の意味と考えられる)がいた。その名を無垢妙光(むくみょうこう)といい、智慧が優れ、知識が豊富であり、人々が会いたいと思われる人であった。常に善い行いに努め、仏の教えに対しては揺るがない信仰心を持ち、その良い心と智慧はとても重く、かつ繊細であり、常にすべての衆生が幸せに過ごすことを願っていた。そして大変豊であって、あらゆる生活物資に満たされていた。
その時、妙光は座より立って仏のところに行き、仏の周りを七周回って、あらゆる香と花を世尊に捧げて、値がつけられないほどの高価で妙なる衣や宝石の飾りや珠の飾りを仏に捧げた。そして頭を仏の両足につけて退き、座って次のように申し上げた。
「ただ願わくは、世尊よ。明日の朝、大衆の方々と共に、私の家に来られて、私の供養をお受けになってください」。
その時、世尊は黙ってこれを許された。妙光も仏が受けてくださったことを知った。
さっそく家に帰って、すぐにその夜、あらゆる食べ物や飲み物をもって膳を設け、家の中をさまざまに厳かに飾った。
翌日になって、多くの従者たちと多くの香や花、および伎楽をもって、如来のところに行き、次のように申し上げた。
「時となりましたので、私の招待をお受けください。まさに今がその時です。どうか願いをお聞きください」。
その時、世尊は無垢妙光婆羅門を労われ、大衆に次のように語られた。
「あなたたちもみな、あの婆羅門の家に行き、彼の供養を受けようではないか」。
こうして世尊はすぐに座を立った。座を立たれて、仏の身体からざまざまな光明が放たれ、あらゆる世界を妙なる色で照らした。すべての人はとても驚いた。この後、如来は道を歩み始められた。
その時、婆羅門は敬い崇める心をもって、従者おより天竜八部衆、また世を護る帝釈天梵天と共に、妙なる香や花をもって道の先を歩み、如来を案内した。
やがて、世尊がそれほど道を進んでいないところに、豊財と名付けられる園があった。そしてその園の中に古く朽ちた塔があった。ほとんど壊れかけていて、草と土に埋もれていて、蔓や棘が絡みついていた。
その時、世尊はその塔のところに行かれると、その朽ちた塔の上から大いなる光明が放たれ、それはまばゆいばかりに輝いた。そして土の中から「良いことだ」という褒め讃える声が聞こえてきた。
「良いことだ。良いことだ。釈迦牟尼如來。今日、行なわれることは、極めてこの上なく良いことである」
また、次のように言った。
「婆羅門であるあなたは、今日、大いなる良い利益(りやく)を得る」。
その時、世尊はその朽ちた塔の右を三周回って、自ら衣を脱いで、その上に掛け、涙を流された。そして涙を流された後、微笑まれた。
まさにその時、あらゆる方角の諸仏が、みな同じくそれを見て涙を流され、共に光明を放ってその塔を照らされた。
その時、そこに集っていた大衆は、みな同じく、この見たことのない光景に驚き怪しんだ。
その時、金剛手菩薩(こんごうしゅぼさつ)もまた涙を流し、その身の炎は燃え盛り、炎はその手に持つ金剛杵(こんごうしょ)の周りを回っていた。
金剛手菩薩は仏のところに進み出て、次のように申し上げた。
「世尊よ。何の因縁があって、この光の相があるのでしょうか。なぜ如来はその目から涙を流されるのですか。この仏の大いなる光の相は目の前にあります。ただ願わくは、如来よ。私と大衆の疑いを解いてください」。

 

つづく

 

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