大乗経典と論書の現代語訳と解説

経論を通して霊的真理を知る

『法華経』現代語訳と解説 その37

法華経』現代語訳と解説 その37

 

妙法蓮華経 法師功徳品 第十九

 

その時に仏は、大いなる常精進菩薩に次のように語られた。

「もし良き男子や良き女子がいて、この『法華経』を受持し、あるいは読誦し、あるいは解説し、あるいは書写したとする。その人は、まさに現世から未来世において(注1)、八百の眼の功徳、千二百の耳の功徳、八百の鼻の功徳、千二百の舌の功徳、八百の身の功徳、千二百の心の功徳を得るであろう。この功徳をもって、あらゆる器官を優れたものとし、清らかにするであろう。

この良き男子や良き女子は、生まれながらの清らかな肉眼をもって、あらゆる世界の内外にある山林や川や海を見ることができ、下は地獄の底から、上は天の最も高い世界に至る、すべての世界のすべての衆生を見、そのすべての業の因縁、そしてその果報の有様を見て、ことごとく知ることができるであろう」。

その時に世尊は、再びこの内容を述べようと、偈の形をもって次のように語られた。

「もし大衆の中において 恐れることなく この『法華経』を説くことについての功徳を あなたたちは聞くがよい この人は八百の 功徳ある優れた眼を得るであろう この功徳がその目に満ち溢れるために その目は非常に清らかであろう 生まれたままの眼をもって すべての世界の山々や山林 そして大海や江河の水を見ることができ その範囲は地獄の底から天上界の最も高いところに至る さらにその中にいるすべての衆生を見る まだ天の眼を得てはいないといえども その肉の眼の能力はこのようになる 。

また次に常精進菩薩よ。もし良き男子や良き女子が、この経を受持し、読誦し、解説し、書写したとすれば、彼らは千二百の耳の功徳を得るであろう。この清らかな耳をもって、すべての世界において、下は地獄の底から上は天の最も高いところの、内外のあらゆる言語、音声、象の声、馬の声、牛の声、車の音、泣き叫ぶ声、悲しみ嘆く声、螺(ほらがい)の音、鼓(つづみ)の音、鐘の音、鈴の音、笑う声、語る声、男の声、女の声、童子の声、童女の声、教えの声、教えではない声、苦しみの声、楽しみの声、凡夫の声、聖人の声、喜ぶ声、喜んではいない声、天の声、龍の声、夜叉(やしゃ)の声、乾闥婆(けんだつば)の声、阿修羅(あしゅら)の声、迦楼羅(かるら)の声、緊那羅(きんなら)の声、摩睺羅迦(まごらか)の声、火の音、水の音、風の音、地獄の声、畜生の声、餓鬼の声、僧侶の声、尼僧の声、声聞の声、辟支仏の声、菩薩の声、仏の声を聞くであろう。

つまり、すべての世界の中の内外のあらゆる声を、まだ天の耳を得ていないといっても、生まれつきの清らかな耳をもって、みなことごとく聞いて知ることができるであろう。このようなあらゆる音声を聞き分けたとしても、耳そのものは損なわれることはない」。

その時に世尊は、再びこのことを述べようと、偈の形をもって次のように語られた。

「生まれつきの耳が 汚れのない清らかなものとなり この耳をもって すべての世界の音を聞くことができるであろう 象や馬や車や牛の声 鐘や鈴や螺(ほらがい)や鼓(つづみ)の音 琴や琵琶の音 簫(しょう)や笛の音 清らかな歌の声 これらを聞いても執着は起こさないであろう 無数のあらゆる人の声 聞いてすべて理解するであろう またあらゆる天の声 妙なる歌の声を聞き および男女の声 童子童女の声を聞くであろう 山や川や険しい谷の中の 迦陵頻伽(かりょうびんが)の声 命命(みょうみょう)などのあらゆる鳥の音声を聞くであろう 地獄のあらゆる苦痛 さまざまな痛み苦しみの声 餓鬼が飢渇に苦しめられ 飲食を求める声 あらゆる阿修羅などが 大海のほとりに住んで 互いに話をする時 大きな声を出すことすらも聞くであろう このように『法華経』を説く者は この世にあって 遠くあらゆる世界の衆生の声を聞いても 耳を損なうことはないであろう あらゆる世界の中の 鳥や獣が互いに呼び合う声を 『法華経』を説く者は この世にあってすべてこれを聞くであろう あらゆる梵天のさらに上の天 および天の最も高いところの声も 『法華経』を説く者は すべてこれを聞くであろう すべての僧侶たち およびあらゆる尼僧が この世にあって(注2)経典を読誦し また他の人のために説くその声も 『法華経』を説く者は すべて聞くであろう また多くの菩薩たちが 経典の教えを読誦し また他の人のために説き 人々を集めてその意味を解き明かすそのすべての声を聞くであろう また大いなる聖なる世尊が衆生を教化され あらゆる会衆の中において 妙なる教えを説くその声を この『法華経』を保つ者は そのすべてを聞くであろう すべての世界の内外のあらゆる音声 下は地獄の底から 上は天の最も高いところに至るまで みなその音声を聞いて その耳を損ねることはないであろう その耳の能力が優れているために すべて正しく聞き分けて知ることができるであろう この『法華経』を保つ者は まだ天の耳を得ていないといえども 生まれつきの耳を用いて その功徳はこのようになるであろう 。

また次に常精進菩薩よ。もし良き男子や良き女子が、この経を受持し、読誦し、解説し、書写するとするならば、八百の鼻の功徳を成就するであろう。この清浄の鼻の器官をもって、あらゆるすべての世界の、上下、内外のさまざまな香を嗅ぐことができるであろう。

須曼那華香(しゅまんなけこう)、闍提華香(しゃだいけこう)、末利華香(まつりけこう)、瞻蔔華香(せんぼつけこう)、波羅羅華香(はららけこう)、赤蓮華香(しゃくれんげこう)、青蓮華香(しょうれんげこう)、白蓮華香(びゃくれんげこう)、華樹香(けじゅこう)、果樹香(かじゅこう)、栴檀香(せんだんこう)、沈水香(ぢんすいこう)、多摩羅跋香(たまらばつこう)、多伽羅香(たからこう)、および千万種の和香(わこう)、あるいは粉にしたもの、あるいは丸めたもの、あるいは塗香(ずこう)など、この経を保つ者は、その一箇所に至るまで(注3)よく嗅ぎ分けることができるであろう。

また、衆生の香、象の香、馬の香、牛羊などの香、男の香、女の香、童子の香、童女の香、および草木や林の香を嗅ぎ分けられるであろう。それが近くても遠くても、あらゆる香をすべて嗅ぎ分けることができ、誤ることはないであろう。

この経を保つ者は、そこに座ったままで(注4)、天上のあらゆる天の香を嗅ぐであろう。波利質多羅(はりしったら)、拘鞞陀羅樹香(くびだらじゅこう)、曼陀羅華香(まんだらけこう)、摩訶曼陀羅華香(まかまんだらけこう)、曼殊沙華香(まんじゅしゃげこう)、摩訶曼殊沙華香(まかまんじゅしゃげこう)、栴檀(せんだん)、沈水(ちんすい)、さまざまな抹香、雑華香など、このような天の香やそれらが混ざり合って放つ香など、嗅ぎ分けられないものなどないであろう。また、あらゆる天の体の香を嗅ぐであろう。釈提桓因(しゃくだいかんにん)が、立派な御殿の上で、五欲を楽しみ遊戯をしている時の香、あるいは妙法堂(みょうほうどう・注5)の上で、忉利天(とうりてん)のあらゆる天的存在のために説法をする時の香、あるいは、あらゆる園において遊戯する時の香、および他の天の男女の体の香など、みなすべて遠くにあって嗅ぐであろう。

このように順次昇って行き、梵天に至り、天の最も上にいるあらゆる天的存在の体の香や、それらが焚く香も嗅ぐことができるであろう。

および声聞の香、辟支仏の香、菩薩の香、諸仏の体の香なども、みな遠くにあって嗅ぐことができ、その所在も知るであろう。これらの香を嗅いでも、鼻の器官は損なわれることはない。もし他の人々にこのことを説いたとしても、正しく記憶しているため、誤ることはないであろう」。

その時に世尊は、再びこの内容を語ろうと、偈の形をもって次のように語られた。

「この人は鼻が清らかであり この世にどのような匂いがあろうとも(注6) 香ばしい香りや臭い臭いなどを すべて嗅ぎ分けることができるであろう 須曼那闍提(しゅまんなしゃだい) 多摩羅栴檀(たまらせんだい) 沈水(ちんすい)および桂(かつら)の香 あらゆる花や果実の香 および衆生の香 男子や女子の香を知るであろう 

説法者は遠くにあっても 香によってその所在を知るであろう 力ある転輪聖王や小転輪およびその子 群臣や多くの宮人たちの香によってその所在を知るであろう 彼らの身に着けている珍宝 および地中にある宝蔵 転輪聖王の宝女などの香によってその所在を知るであろう 多くの者の身の装飾品や衣服および瓔珞や あらゆる塗られた香など 嗅いでその者が誰であるかを知るであろう 多くの天的存在が 進んだり座ったり または遊戯または神変する様子を この『法華経』を保つ者は その香を嗅いですべて正しく知るであろう 

多くの花や果実 および蘇油(そゆ・注7)の香気などを この経を保つ者は あらゆる土地の匂いを嗅いで(注8) すべてその所在を知るであろう 多くの山の深く険しい場所にある 栴檀樹(せんだんじゅ)の花が開くあり様を 衆生の中にありながら その香を嗅いで正しく知るであろう 

鉄囲山(てっちせん)や大海や地中の多くの衆生も この経典を保つ者はその香を嗅いで すべて正しくその所在を知るであろう 

阿修羅の男女 およびその多くの従者たちが 闘争し遊戯する時の香を嗅いで すべて正しく知るであろう 荒野の険しい場所で 師子や象や虎や狼 野牛や水牛などの香を嗅いで所在を知るであろう 

もし懐妊した者がいたとして その子が男であるか女であるか または生きているが死んでいるかなども その香を嗅いで正しく知るであろう その香を嗅ぐ力をもって 初めて懐妊して 無事生まれるか生まれないか 楽に産めるかどうかも知るであろう 香を嗅ぐ力をもって 男女の所念 欲望や怒りの心を知り また善を行なう者を知るであろう 

地中に埋められた宝 金銀などの珍宝 銅器などがある所 その香を嗅いで正しく知るであろう あらゆる瓔珞の価値がわからない状態であっても その香を嗅いで その価値があるかないか どこで作られたのか およびその所在を知るであろう 

天上の多くの花である曼陀曼殊沙(まんだまんじゅしゃ)や 波利質多樹(はりしったじゅ)の香を嗅いですべて正しく知るであろう 天上の多くの宮殿の 上中下の違いや 多くの宝の花が厳かに飾られている香を嗅いで すべて正しく知るであろう 天の園林や優れた宮殿 多くの高殿や妙法堂 またその中にあって娯楽する その香を嗅いですべて正しく知るであろう 多くの天的存在たちが 教えを聞いたり 五欲を受けたりする時 または行住坐臥する時の香を嗅いで すべて正しく知るであろう 天女が着ている衣が 良い花の香をもって厳かに飾られ 飛び回って遊戯する時の香を嗅いで すべて正しく知るであろう

このように順次昇って 梵天に至るまでの禅定に入った者出た者の香を嗅いで すべて正しく知るであろう 光や音が遍く清らかな天から 天の最も高い天に至るまでの 初めて天に生まれた者や 再び人間界に落ちてしまう者などの香を嗅いで すべて正しく知るであろう

多くの僧侶たちが 教えにおいて常に精進し 立ったり歩いたり および経典の教えを読誦し あるいは林樹の下にあって 座禅に専念したりする香を 『法華経』を保つ者は嗅いで すべてその所在を知るであろう 

菩薩の志が堅固であり 坐禅したり経典を読んだり あるいは人に説法する香を嗅いで すべて正しく知るであろう 

あらゆる方角の世尊が すべての人々に敬われ 人々を憐れんで説法する香を嗅いで すべて正しく知るであろう 衆生が仏の前にあって 経典を聞いてみな喜び 教えの通りに修行する香を嗅いで すべて正しく知るであろう 

この『法華経』を保つ者は 菩薩の煩悩を断ち切った鼻を得ていなくても まずその鼻の形を得るであろう 。

 

注1・「現世から未来世において」 この語は訳者の追加である。この「法師功徳品」には、もちろん他の箇所でもそうであったが、測り知れないほどの功徳を得る、ということが記されているが、とてもこのようなことは、ただ現世で受けることは不可能である。しかし、これも測り知れないほどの長さである多くの未来世においては、じゅうぶん受けることは可能である。

注2・漢訳では、経典を読誦し、解説する声を、この世にあってすべて聞く、となっているが、サンスクリットからの直訳によると、この世にあって経典を読誦し、解説する声をすべて聞くとなっており、この後者の解釈によって訳した。

注3・「その一箇所に至るまで」 漢訳では、この箇所は「この世にあって」となっているが、これもサンスクリットからの直訳によると、「その一箇所に至るまで」となっており、この後者の解釈によって訳した。

注4・「そこに座ったままで」 漢訳では、この箇所は「この世にあって」となっているが、これもサンスクリットからの直訳によると、「そこに座ったままで」となっている。すなわち、天に昇らなくても、天上のあらゆる天の香を嗅ぐということであり、この後者の解釈によって訳した。

注5・「妙法堂」 天にあって天的存在たちが集まって論議する場所。

注6・「この世にどのような匂いがあろうとも」 漢訳では、この箇所は「この世にあって」となっているが、これもサンスクリットからの直訳によると、「この世にどのような匂いがあろうとも」となっており、この後者の解釈によって訳した。

注7・「蘇油」 宗教的儀式に使用する油。

注8・「あらゆる土地の匂いを嗅いで」 漢訳では、この箇所は「この世にあって」となっているが、これもサンスクリットからの直訳によると、「あらゆる土地の匂いを嗅いで」となっており、この後者の解釈によって訳した。