大乗経典と論書の現代語訳と解説

経論を通して霊的真理を知る

『法華経』現代語訳と解説 その47

法華経』現代語訳と解説 その47

 

妙法蓮華経 妙荘厳王本事品 第二十七

 

その時に仏は、大衆に次のように語られた。

「無量無辺不可思議阿僧祇劫の遠い過去に、仏がいた。その名を雲雷音宿王華智多陀阿伽度阿羅訶三藐三仏陀(うんらいしゅくおうけちただあかど・あらか・さんみゃくさんぶっだ)という。その仏の教えを受ける者たちの中に王がいた。その名を妙荘厳(みょうしょうごん)という。その王の夫人の名を浄徳(じょうとく)という。二人の子供がいて、ひとりを浄蔵(じょうぞう)と名づけ、もうひとりを浄眼(じょうげん)と名づける。

その二人の子には、大いなる神通力、福徳、智慧があって、長い間、菩薩の行なうべき道を修した。いわゆる六波羅蜜の檀波羅蜜・尸羅波羅蜜・羼提波羅蜜・毘梨耶波羅蜜・禅波羅蜜般若波羅蜜、そして方便波羅蜜、また四無量心の慈悲喜捨、そして三十七道品の助道の法(注1)を、みなことごとく明らかに成就した。また、菩薩の浄三昧・日星宿三昧・浄光三昧・浄色三昧・浄照明三昧・長荘厳三昧・大威徳蔵三昧をすべて成就した。

その時その仏は、妙荘厳王を導くため、および衆生を憐れまれ、この『法華経』を説かれた。

その時に浄蔵と浄眼の二人の子は、その母のところに行き、合掌して次のように語った。

『願わくは母上。雲雷音宿王華智仏のところに礼拝するために行かせてください。私たちは従い仕え、供養し礼拝しようと思います。なぜならば、この仏は、すべての天と人々の中において、『法華経』を説かれています。私たちも聞くことを願います』。

母は子に次のように語った。

『あなたの父は、外道を信じ受け入れ、深く婆羅門の教えに執着しています。あなたがたは父のところに行き、共に行くようにしなさい』。

浄蔵と浄眼は、合掌して母に次のように語った。

『私たちは教えの王である仏の子です。しかし、他の宗教の家に生まれました』。

母は子に次のように語った。

『あなたたちは、あなたたちの父を気の毒に思い、そのために神変を現わすべきです。もし父がそれを見るならば、心は必ず清らかとなるでしょう。そうなれば、私たちの仏のところに行くことを聞き入れるでしょう』。

そこで二人の子は、その父を思って、非常に高く虚空に上り、そこに留まってあらゆる神通力による変化を現わした。虚空の中において行住坐臥し、身の上より水を出し、身の下より火を出し、身の下より水を出し、身の上より火を出し、あるいは身を大きくして虚空の中に満ち、また身を小さくしてまた大きくし、空中において消え、また突然地面に姿を現わした。そして、地面の中に水がしみこむように入り、また水の上を歩いた。このようなあらゆる神変を現わして、その父である王の心を清くして信じ受け入れるようにした。

その時に父は、子の大いなる神通力を見て、未曾有と大変喜んで、合掌して子に向かって次のように語った。

『あなたたちの師は誰であるか、あなたたちは誰の弟子か』。

二人の子は次のように語った。

『大王よ。あの雲雷音宿王華智仏が、今、七宝の菩提樹下の法座の上に座っておられます。すべての世界の天や人々の中で、広く『法華経』を説いておられます。この仏が、私たちの師です。私たちはこの仏の弟子です』。

父は子に次のように語った。

『私も今、あなたたちの師に会いたいと思う。共に行こうではないか』。

そこで二人の子は、空中より下りて、母のところに行き、合掌して次のように語った。

『王である父は、今信じ受け入れ、阿耨多羅三藐三菩提を求める心を起こす条件を満たされました。私たちは父のために、すでに仏の教えの中でなすべきことをなし終えました。願わくは母上。あの仏のところにおいて、出家して道を修することを許してください』。

その時に二人の子は、再びこの内容を述べようと、偈の形をもって次のように語った。

『願わくは母よ 私たちが出家して僧侶となることを許したまえ 諸仏にお会いすることは非常に難しいことです 私たちは仏に従って学ぶことを願います 三千年に一度花が咲くという優曇波羅(うどんぱら)のように 仏にお会いすることはこれよりも難しいことです 仏に会うことを妨げることから脱することもまた難しいことです 願わくは私たちの出家をお許しください』。

母は次のように語った。

『あなたたちの出家を許します。なぜならば、仏に会うことは非常に難しいからです』。

そこで二人の子は、その父母に次のように語った。

『父上、母上、ありがとうございます。願わくは共に、雲雷音宿王華智仏のところに行き、親しく供養してください。なぜなら、仏に会うことは難しいからです。三千年に一度咲く優曇波羅華のように、また片目の亀が大海に浮いた木の穴に顔を入れるように、非常に稀なことです。しかし、私たちは前世において植えられた福が深く厚く、仏の教えに会うことができました。このために、父上、母上よ。私たちを許して出家させてください。なぜならば、諸仏に会うことは難しく、また、仏がおられる時代に遭遇することも難しいからです』。

この時すでに、妙荘厳王に仕える八万四千の人々は、みなこの『法華経』を受持するにふさわしい人々であった。子の浄眼はまさに菩薩にふさわしく、すでに法華三昧を成就していた。またもう一人の子である浄蔵はまさに菩薩にふさわしく、すでに無量百干万億劫において、離諸悪趣三昧(りしょあくしゅざんまい)を成就していた。すべての人々が、あらゆる悪の世界から離れることを願ってのことであった。そしてこの王の夫人は、諸仏集三昧(しょぶつしゅうざんまい)を得て、よく諸仏の秘密の教えを知ることに至っていた。

このように、二人の子は、方便の力をもって、その父が仏の教えを信じ受けることを願うように導いた。

こうして妙荘厳王は群臣や従者と共に、浄徳夫人は宮に仕える女官や従者と共に、王の二人の子は四万二千人と共に、仏のところに行った。そして頭面を仏の足につけて礼拝し、仏の周りを三周して、その片隅に座った。

その時に仏は、王のために教えを説き、その心を奮い立たせた。王は大いに喜んだ。

その時に妙荘厳王とその夫人は、大変高価な首飾りの真珠を解いて、仏の上に注いだ。それらは虚空の中において、四つの柱がある宝の台となった。その台の中に大宝の床があり、百千万の天の衣が敷かれていた。その上に仏が結跏趺坐して大光明を放たれた。

その時に妙荘厳王は次のように思った。

『仏の身は非常に尊く、その尊厳と美しさは際立っている。最も妙なるお姿を成就されている』。

その時に雲雷音宿王華智仏は、僧侶や尼僧や男女の在家信者に、次のように語られた。

『あなたたちはこの妙荘厳王が私の前において、合掌して立っている姿を見ているか。この王は、私のもとで僧侶となり、仏の道に進ませる教えを精進し、まさに仏となるであろう。その名を娑羅樹王(しゃらじゅおう)という。その国を大光と名づけ、劫を大高王と名づける。その娑羅樹王仏には、無量の菩薩たちや声聞たちがいて、その国はすべて平らである。その仏国土にはこのような功徳があるのだ』。

その王は、即時に国を弟に譲り、王と夫人と二人の子、ならびに多くの従者と共に、その仏のもと出家して道を修した。王は出家して、八万四千年において、常に勤めて精進して『妙法蓮華経』を修行した。この後、一切浄功徳荘厳三昧と名付けられる瞑想を得た(注2)。

王はその三昧の中で、非常に高く虚空に昇り、仏に次のように申し上げた。

『世尊、この私の二人の子は、仏の道を行なう中で、神通力による変化をもって、私の誤った心を転じて仏の教えを受け入れるようにさせ、世尊にお会いすることができました。この二人の子は、私にとって善知識です。前世までの良い因縁を発揮して、私を導くために、私の家に生まれてくれました』。

その時に雲雷音宿王華智仏は、妙荘厳王に次のように語られた。

『その通りだ。その通りだ。あなたが言った通りだ。もし良き男子や良き女子が、善根を積むならば、何度生まれ変わっても、その時その時に善知識に会うのだ。その善知識は、仏の道を進ませ、心を奮い立たせて、阿耨多羅三藐三菩提に入らせるのだ。大王よ。まさに知るべきである。良い導き手はすばらしい因縁の結果である。教化して導き、仏に会わせ、阿耨多羅三藐三菩提を求める心を起こさせるのだ。大王よ。あなたの二人の子を見ているか。この二人の子は、すでにかつて六十五百千万億那由他の大河の砂の数ほどの諸仏を供養し、親しく近づき敬い、諸仏のところにおいて『法華経』を受持し、誤った考えの衆生を憐れみ、正しい教えに立たせたのだ』。

妙荘厳王は、即座に虚空の中から下りて、仏に次のように申し上げた。

『世尊よ。如来は非常に尊いお方です。その功徳と智慧をもって、肉髻の光明は照り輝いています。その眼は長く広く、紺青の色をしています。眉間の白毫の白いことは満月のようです。その歯は白く、整然と並んでおり常に光明があります。唇の色は素晴らしい赤い色で果実のようです』。

その時に妙荘厳王は、このような仏の無量百千万億の功徳を讃歎し終わって、如来の前において一心に合掌して、また仏に次のように申し上げた。

『世尊よ。このようなことは今までにありませんでした。如来の教えは、不思議であり、妙なる功徳をすべて成就しています。教えや戒めを行なう時、心は心地よく平安となります。私は今日より、自らの心の赴くままには従わず、誤った見解や高慢な心や、怒りやあらゆる悪しき心を生じさせません』。

この言葉を説き終わって、仏を礼拝して出て行った(注3)」。

仏は、大衆に次のように語られた。

「あなたたちはどのように思うか。妙荘厳王は、他の誰でもない。今の華徳菩薩である。その浄徳夫人は、今、仏の前にいる光照荘厳相(こうしょうそうごんそう)菩薩である。この菩薩は、妙荘厳王および多くの従者を憐れんで、彼の時代に生まれたのである。そしてその二人の子は、今の薬王菩薩と薬上菩薩である。この薬王菩薩と薬上菩薩は、このような大いなる功徳を成就して、無量百千万億の諸仏のもとで、多くの功徳の因縁を積んで、思いも及ばない多くの良き功徳を成就した。もしある人が、この二人の菩薩の名を知るならば、すべての天と人から敬われるであろう」。

仏がこの「妙荘厳王本事品」を説かれた時、八万四千人が汚れを離れ、あらゆる存在の中において、清らかな悟りの眼を得た。

 

注1・「六波羅蜜の檀波羅蜜・尸羅波羅蜜・羼提波羅蜜・毘梨耶波羅蜜・禅波羅蜜般若波羅蜜、そして方便波羅蜜、また四無量心の慈悲喜捨、そして三十七道」

六波羅蜜は、①檀(那)波羅蜜(だん(な)はらみつ=布施波羅蜜)、②尸羅波羅蜜(しらはらみつ=持戒波羅蜜)、③羼提波羅蜜(せんだいはらみつ=忍辱波羅蜜)、④毘梨耶波羅蜜(びりやはらみつ=精進波羅蜜)、⑤禅(定)波羅蜜、⑥般若波羅蜜の六つである。つづいて、方便波羅蜜がここであげられているが、十波羅蜜となると、六波羅蜜般若波羅蜜が派生した形で、方便・願・力・智の四つが加わる。この中で方便波羅蜜だけがあげられていると解釈すべきか。続く慈悲喜捨は四無量心といい、特に禅定に入る前の落ち着いた心を得るためのものである。次の三十七道品(さんじゅうしちどうほん)は、悟りのための三十七種の修行方法であり、さらに分けると、四念処・四正勤・四如意足・五根・五力・七覚支・八正道となる。

注2・ここまで、さまざまな三昧の名が出て来たが、そもそも三昧=瞑想は霊の次元における宗教的体験であるため、その内容は説明するべきものでもなく、説明されるものでもない。一応、名がつけられているが、その内容を知らねばならないということはない。

注3・仏が説かれる、妙荘厳王の過去の話が長いので、つい混同してしまうのだが、ここまでが、釈迦如来が語った昔の話である。これ以降は、今、『法華経』を説いている場における言葉となる。