大乗経典と論書の現代語訳と解説

経論を通して霊的真理を知る

2020-04-01から1ヶ月間の記事一覧

撰時抄 その18 (完)

問う:昔、このように言った人はあるだろうか。 答える:伝教大師は、「まさに知るべきである。他宗の拠り所とする経典は第一の経典ではない。したがって、その第一ではない経典を持つ者もまた、第一ではない。天台法華宗は拠り所とする経典が第一である。そ…

撰時抄 その17

問う:二つめにあげた文永八年九月十二日の時(注:龍口法難の前日、平頼綱に捕らえられ尋問される)は、どうして、日蓮を失えば自国でも他国からも、戦いが起こるとわかったのか。 答える:『大集経』に「もしまたあらゆる国の支配階級である国王が、あらゆ…

撰時抄 その16

問う:何をもってこのことを信じるか。 答える:『最勝王経』に「悪人を敬愛し、善人を罰するために、天体の運行や気候が正常ではなくなる」とある。この経文の意味は、国に悪人がいるにもかかわらず、王や大臣がこの悪人に帰依するということに間違いない。…

撰時抄 その15

亡国の悲しさと亡身の嘆かわしさに、身命を捨ててこのことを表わしてきた。そして、これからも表わそうではないか。国主ならば、世を保つために私の指摘に驚いて、もっと詳しく聞きに来なければならないはずなのに、ただ、他人を貶める言葉だと受け取って、…

撰時抄 その14

質問して言う:『法華経』が真言より勝るとする人は、この解釈をどうすべきか。用いるべきか。あるいは捨てるべきか。 答える:釈迦は、これからの僧侶の姿勢について、「教えによるのであり、人によるのではない」と言っている。竜樹菩薩は、「経典によれば…

撰時抄 その13

これよりも百千万億倍、信じられないような最大の悪事がある。慈覚大師(じかくだいし・円仁(えんにん)。伝教大師最澄の弟子。唐に渡り、その9年間の旅の記録を『入唐求法巡礼行記(にっとうぐほうじゅんれいこうき)』として記し、その書物は世界三大旅…

撰時抄 その12

弘法大師は、同じ延暦年中に唐に渡り、青竜寺の慧果に師事して真言宗を学んだ。帰国後、釈迦の説かれたすべての経典の優劣を判断して、第一に真言、第二に華厳、第三に法華と説いた。この大師は世間の人々も大変尊敬する人である。ただし、仏教における功績…

撰時抄 その11

真言宗という宗派は、上の二つに比べ物にならないくらい、大きな誤りのある宗派である。これからそれについて述べよう。 いわゆる中国唐の玄宗皇帝の時代に、善無畏三蔵、金剛智三蔵、不空三蔵は、『大日経』や『金剛頂経』や『蘇悉地経(そしつじきょう・い…

撰時抄 その10

問う:それでは、その秘めた教えとは何か。まずその名を聞き、次にその意味を聞こうと思う。このことがもし事実なら、釈迦が再びこの世に現われるのだろうか。『法華経』で説かれる上行菩薩が、再び地より涌き出るのであろうか。早々に慈悲を下されたい。玄…

撰時抄 その9

問う:伝教大師は日本国の人である。桓武の天皇の御世に現われて、欽明天皇より二百年あまりの間の誤った教えを破り、天台大師の完全な智慧と完全な禅定を広めるばかりではなく、鑑真和尚の広めた日本の小乗の三所(奈良東大寺、太宰府観世音寺、下野薬師寺…

撰時抄 その8

質問して言う:(注:この質問の内容は非常に長いので、どこまで質問なのか、見誤らないように注意が必要)。正法一千年間の論師たちは、内心では『法華経』で明らかにされている真理が、顕教や密教の諸経典に超過していることを知っていながら、外には説か…

撰時抄 その7

質問して言う:たとえ正法の時は、仏が世におられた時に比べれば、人々の能力は劣っていると言っても、像法や末法の時に比べれば、最上の能力を人々は持っているということになるではないか。ではなぜ、正法の始めから『法華経』が用いられなかったのか。馬…

撰時抄 その6

今は、末法に入って二百年あまりが過ぎた。 (注:先にも述べたように、日蓮上人当時の日本では、釈迦が死んだのは、西暦紀元前949年とされていた。したがって、最終的な時代である末法(まっぽう)は、釈迦の死後二千年後に始まるのであるから、平安時代…

撰時抄 その5

像法に入って四百年あまり過ぎたころ、朝鮮半島の百済国より、すべての経典と釈迦の仏像と僧侶などが渡って来た。それは中国では梁の末から陳の始めに当たる。日本においては、初代天皇である神武天皇より第三十代の欽明(きんめい)天皇の時代である。欽明…

撰時抄 その4

正法一千年の後は、月氏(げっし・インド西北部の国。クシャーナ朝などと呼ばれ、特にカニシカ王が仏教に帰依したことは有名。その結果、シルクロードを通ってもたらされたヘレニズム文化と仏教文化が合流し、ガンダーラ地方に仏教文化が栄え、仏像などが初…

撰時抄 その3

問う:龍樹や天親(てんじん・世親とも言われる。4世紀から5世紀のインドの僧。唯識(ゆいしき)思想の大成者)などの学者の論書に、このことは述べられているのか。 答える:龍樹や天親たちは、心の内には思っていても、説くことはしなかった。 さらに追…

撰時抄 その2

問う:その証拠になる経文などは何であるか。 答える:『法華経』に「私の滅度(めつど・仏が死んでその世界から姿がなくなること)の後の五百年間、この経は広まり、この世において教えは断絶することがないであろう」とある。この経文は『大集経』でいうと…

撰時抄 その1

撰時抄 (注:『撰時抄(せんじしょう)』は、日蓮54歳の著作である。身延において記される。この題名には、今はどのような「時」であるのか、それを「撰(えら)ぶ」という意味がある。) 釈迦の弟子である日蓮が述べる そもそも仏の教えを学ぼうとするな…

寺泊御書 現代語訳と解説

寺泊御書 今月十日(文永8年・1271年)、相州愛京郡依智の郷(現在の神奈川県厚木市)を出発して、武蔵国久目河の宿(現在の東京都東村山市)に着き、十二日間を経て、越後国の寺泊の港に着きました。これから海を渡って佐渡に行こうとしていますが、風…

立正安国論 現代語訳と解説 後半

客人は少し和らいで言った。 おっしゃること、すべて理解したわけではありませんが、ほぼ、その内容はわかりました。しかし、京都から鎌倉に至るまで、仏教界の棟梁とも言うべき中心的な人物がいます。そのような人たちは、誰も幕府に訴えることもせず、朝廷…

立正安国論 現代語訳と解説 前半

立正安国論 客人が来て言った。 このごろ、まさに天変地異が続き、さらに飢饉や疫病が広まっています。 人ばかりか牛や馬までが死んでしまい、その死体は道のあちこちに見られます。 ある人たちは念仏を唱え、または病が治ると信じられている『薬師経』を読…