大乗経典と論書の現代語訳と解説

経論を通して霊的真理を知る

『法華経』現代語訳と解説 その46

法華経』現代語訳と解説 その46

 

妙法蓮華経 陀羅尼品 第二十六

 

その時に薬王菩薩は、座より立って、右の肩を現わして合掌し、仏に向かって次のように申し上げた。

「世尊よ。もし良き男子や良き女子がいて、『法華経』を受持し、読誦し、深く理解し、経巻を書写するならば、どれほどの福を得るのでしょうか」。

仏は、薬王菩薩に次のように語られた。

「もし良き男子や良き女子がいて、八百万億那由他の大河の砂の数ほどの諸仏を供養したとする。あなたはどう思うか。その得るところの福は多いか少ないか」。

「非常に多いです。世尊よ」。

仏は次のように語られた。

「もし良き男子や良き女子がいて、この『法華経』のひとつの四句の偈を受持し、読誦し、意味を解釈し、説くところに従って修行するとしたら、その功徳はさらに多いのだ」。

その時に薬王菩薩は、仏に次のように申し上げた。

「世尊よ、私は今まさに説法者に陀羅尼呪を与えて、これをもって守護します」。

すなわち、次のように呪を説いた。

「あに、まに、まねい、ままねい、しれい、しゃりてい、しゃみや、しゃびたい、せんてい、もくてい、もくたび、しゃび、あいしゃび、そうび、しゃび、しゃえい、あきしゃえい、あぎに、せんてい、しゃび、だらに、あろきゃばさいはしゃびしゃに、ねいびてい、あべんたらねいびてい、あたんだはれいしゅたい、うくれい、むくれい、あられい、はられい、しゅぎゃし、あさんまさんび、ぼつだびきりじりてい、だるまはりしてい、そうぎゃちりくしゃねい、ばしゃばしゃしゅたい、まんたら、まんたらしゃやた、うろたうろた、きょうしゃりゃ、あきしゃら、あきしゃやたや、あばろ、あまにゃなたや。

世尊よ。この陀羅尼神呪は、六十二億の大河の砂ほどの数の諸仏が説くところです。もしこの法師を罵る者がいるならば、すなわち諸仏を罵ることになります」。

その時に釈迦牟尼仏は、薬王菩薩を褒めて次のように語られた。

「良いことだ。良いことだ。薬王菩薩よ。あなたはこの『法華経』の法師を憐れみ守るために、この陀羅尼を説いた。あらゆる衆生に益となることが多いであろう」。

その時に勇施菩薩は、仏に次のように申し上げた。

「世尊よ。私もまた、『法華経』を読誦し受持する者を守るために、陀羅尼を説きます。もしその法師がこの陀羅尼を得るならば、夜叉や羅刹などの悪しき鬼たちが、その者の短所を求めても、それを見つけ出すことはできないでしょう」。

すなわち仏の前において、呪を次のように説いた。

「ざれい、まかざれい、うき、もき、あれい、あらばてい、ちりてい、ちりたはてい、いちに、いちに、しちに、にりちに、にりちはち。

世尊よ。この陀羅尼神呪は、大河の砂の数ほどの諸仏の所説です。またみなこれを喜ばれます。もしこの法師を罵る者がいるならば、すなわち、この諸仏を罵ったことになります」。

その時に世を守る毘沙門天は、仏に次のように申し上げた。

「世尊よ。私もまた衆生を憐れみ、この『法華経』の法師を守るために、この陀羅尼を説きます」

すなわち、呪を次のように説いた。

「あり、なり、となり、あなろ、なび、くなび。

世尊よ。この神呪をもって法師を守ります。また私自らもまさにこの経典を保つ者を守って、広い範囲にわたって、あらゆる憂いや困難がないようにします」。

その時に持国天(じこくてん)は、この会衆の中にあって、千万億那由他乾闥婆(けんだつば)たちを従えて、進んで仏のところに進み出て合掌して、次のように申し上げた。

「世尊よ。私もまた陀羅尼神呪をもって、『法華経』を保つ者を守ります」。

すなわち、呪を次のように説いた。

「あきゃねい、きゃねい、くり、けんだり、せんだり、まとうぎ、じょうぐり、ふろしゃに、あんち。

世尊よ。この陀羅尼神呪は、四十二億の諸仏の所説です。もしこの法師を罵る者がいるならば、すなわちこの諸仏を罵ったことになります」。

その時に羅刹女(らせつにょ)たちがいた。名は藍婆(らんば)、毘藍婆(びらんば)、曲歯(こくし)、華歯(けし)、黒歯(こくし)、多髪(たほつ)、無厭足(むえんぞく)、持瓔珞(じようらく)、皇諦(こうたい)、奪一切衆生精気(だついっさいしゅじょうしょうけ)といい、この十人の羅刹女鬼子母神(きしぼじん)とその子、ならびに従者たちと共に仏のところに進み出て、声を同じくして仏に次のように申し上げた。

「世尊よ。私たちもまた、『法華経』を読誦し受持する者を守り、その憂いや困難を除こうと願います。もし、その法師の短所を求める者がいたとしても、それを見つけ出すことはできないでしょう」。

すなわち、仏の前において、呪を次のように説いた。

「いでいび、いでいびん、いでいび、あでいび、いでいび、でいび、でいび、でいび、でいび、でいび、ろけい、ろけい、ろけい、ろけい、たけい、たけい、たけい、とけい、とけい。

私の頭の上に上ったとしても、法師を悩ますことは許しません。あらゆる鬼神たち、あるいは熱病であっても、一日、二日、三日、四日、さらに七日、あるいは常に熱で苦しめる病であっても、あるいは男の形、女の形、男子の形、女子の形、あるいは夢の中であっても、悩ますことを許しません」。

すなわち、仏の前において、偈の形で次のように説いた。

「もし私の呪に従わず 説法者を悩ますならば その頭は阿梨樹の木の枝のように七つに裂けるであろう 父母を殺す罪のように また不正な油を作る者 升をごまかして商売する者 僧団を分裂させる者のように 重い罰を受けるであろう 」。

羅刹女たちは、この偈を説き終わって、仏に次のように申し上げた。

「世尊よ。私たちはまさに、この身をもって、この経を受持し読誦し修行する者を守り、安穏でいることを得させ、あらゆる憂いや困難を離れ、多くの毒を消させます」。

仏は羅刹女たちに次のように語られた。

「良いことだ。良いことだ。あなたたちはよく、法華の名だけでも受持する者さえ守ろうとする。その福は測ることができない。ましてや、経典を完全に受持し、経巻に花や香、瓔珞、抹香、塗香、焼香、飾られた旗や傘、伎楽を供養し、あらゆる尊い妙なる燈火を百千種も灯し、これをもって供養する法師は、この羅刹女たちによって守られるべきである」。

この「陀羅尼品」を説かれた時、六万八千人が無生法忍(むしょうほうにん・注1)を得た。

 

注1・「無生法忍」 すべての存在はもともと生じることはない、ということを悟ること。