大乗経典と論書の現代語訳と解説

経論を通して霊的真理を知る

『法華経』現代語訳と解説 その40

法華経』現代語訳と解説 その40

 

妙法蓮華経 如来神力品 第二十一

 

その時に、千の世界を微塵にしたほどの数の大いなる菩薩たち、および地より涌き出た菩薩たちは、みな仏の前において一心に合掌し、その尊い御顔を仰ぎ見て、仏に次のように申しあげた。

「世尊よ。私たちは世尊とその分身の諸仏の国土において、その仏の滅度の後、まさに広くこの経を説くべきと存じます。なぜならば、私たちもまた自ら、この真理であり清らかな大いなる教えを得て、受持し読誦し解説し書写して、これを供養しようと願うからです」。

その時に世尊は、文殊菩薩はじめ無量百千万億の娑婆世界の大いなる菩薩たち、および多くの僧侶や尼僧や男女の在家信者、天龍八部衆などのすべての衆生の前において、大いなる神通力を現わされた。

すなわち、広長舌(こうちょうぜつ・注1)を出して、上は梵天に至り、またすべての体毛の穴より、無量無数の色の光を放って、広く遍くあらゆる方角の世界を照らされた。

また、多くの宝樹の下の獅子座におられる諸仏も、同じように広長舌を出し無量の光を放たれた。このように、釈迦牟尼仏および宝樹の下におられる諸仏は、百千年間、この神通力を現わし続けられた。

その後、釈迦牟尼仏および諸仏は、広長舌を収められ、同時に咳払いをされ、また共に指を弾かれた。この咳払いの声と指を弾いた音は、釈迦牟尼仏および諸仏の光に照らされた、あらゆる方角の世界に遍く広がり、その地はみな六通りに震動した。

そして、そのあらゆる方角の世界の中にいる衆生天龍八部衆たちは、この仏の神通力によって、この娑婆世界の中の、無量無辺百千万億の多くの宝樹の下にある獅子座におられる諸仏を見、および釈迦牟尼仏多宝如来が共に宝塔の中にあって、その獅子座に座られている様子を見、また、無量無辺百千万億の大いなる菩薩、および多くの僧侶や尼僧や男女の在家信者が、釈迦牟尼仏を拝み敬い、その周りを囲っている様子を見た。

このように見た彼らは、未曾有であると大いに喜んだ。

その時、虚空の中から大きな天の声が響き渡り、次のように言った。

「ここから無量無辺百千万億の世界を過ぎたところに国がある。その国の名は娑婆という。その中に仏がおられる。その仏の名は釈迦牟尼という。今、多くの大いなる菩薩のために、大乗経典である『妙法蓮華・教菩薩法・仏所護念』(みょうほうれんげ・きょうぼさっぽう・ぶっしょごねん)と名づけられる経典を説かれている。あなたがたはまさに、心深くこのことを喜ぶべきである。またまさに、その釈迦牟尼仏を礼拝し供養すべきである」。

その多くの衆生は、このような虚空の中の声を聞き終わって、合掌して娑婆世界に向かって、次のように言った。

「南無釈迦牟尼仏、南無釈迦牟尼仏」。

そしてさまざまな華や香、瓔珞、旗や立派な傘、およびさまざまな身を飾る装飾品、珍宝、妙なる品物をもって、みな共に遥か遠くにある娑婆世界に向かってそれらを注いだ。その注がれた諸物は、あらゆる方角から雲のように集まって来て、さらにそれが変化して宝の傘となり、この娑婆世界の諸仏の上を覆った。その時、あらゆる方角の世界は、各々の区別がなくなり、みなひとつの仏の国土のようになった。

その時に仏は、上行菩薩などの多くの菩薩たちに次のように語られた。

「諸仏の神通力は、このように無量無辺であり、人の計り知れるものではない。しかし、私がこの神通力をもって、無量無辺百千万億阿僧祇劫の間、この経典を伝える功徳を説き続けたとしても、語り尽くせるものではない。要約すれば、この経典の中には、如来の持つすべての教え、如来の持つすべての自在の神通力、如来の持つすべての秘密の重要な蔵、如来の持つすべての非常に深い事柄が、みな述べられ、表わされている。

このために、あなたがたは如来の滅度の後において、まさに一心に受持し、読誦し解説し書写し、説くところに従って修行すべきである。

ある国土に、この『法華経』を受持し、読誦し解説し書写し、説くところに従って修行する者がいたとする。それが、経典が安置されているところであっても、園の中であっても、林の中であっても、樹木の下であっても、僧坊であっても、在家の人の家であっても、立派な殿堂であっても、山谷の広野であっても、みなその場所に塔を建てて供養すべきである。それはなぜであろうか。まさに知るべきである。その場所は、すなわち道場なのである。諸仏がその場所において阿耨多羅三藐三菩提を得て、諸仏がその場所において教えを説き、諸仏がその場所において死んで完全な悟りの境地に入られたからである」。

その時に世尊は、再びこの内容を述べようと、偈の形をもって次のように語られた。

「救世者である諸仏は 大いなる神通力をもって 衆生を喜ばすために 無量の神通力を現わされた 広長舌を出されて梵天に至り 身より無数の光を放って 仏道を求める者のために この尊い姿を現わされた 諸仏の咳払いの声と および指を弾く音 遍くあらゆる方角の国に響き渡り その地は六通りに震動した 仏の滅度の後に 人々にこの経を保たせるために 諸仏はみな喜んで 無量の神通力を現わされた この経を伝えるために 経を保つ者を讃美するならば 無量劫の中においても なお讃美し尽くすことはできない この人の功徳は 無辺にして限りあることはない あらゆる方角の虚空には その果てがないことと同じである 

この経を保つ者は すなわちすでに私を見ているのであり また多宝仏および多くの仏の分身を見ているのであり また私が今 教化している多くの菩薩を見ているのである この経を保つ者は 私および分身の仏 さらにすでに滅度している多宝仏を喜ばせる そしてこの者は あらゆる方角の仏 ならびに過去の仏や未来の仏を見て 供養し喜ばせることができるのである 諸仏が道場に座って得たところの 秘められた重要な教えを この経を保つ者は 間もなくそれを得るであろう 

この経を保つ者は あらゆる教えの意味 その文字や言葉において 自由に説いて極まりないであろう それは風が空中において 全く妨げがないようなものである 如来の滅度の後に 仏が説いた経典の その因縁および順序を知って 正しい意味に従って説くであろう それは太陽や月の光が 多くの暗闇を除くように その人はこの世にあって 衆生の闇を滅ぼし 無量の真理を求める者を導き ついには一仏乗の教えに入らせるであろう 

このために智慧のある者は この功徳を聞いて 私の滅度の後において この経を受持すべきである この人は仏の道において 決して疑いを持つことはないであろう 」。

 

注1・「広長舌」 仏の舌は広く長いという意味であるが、それは、仏の教えが広く全世界に及ぶということを表わしている。