大乗経典と論書の現代語訳と解説

経論を通して霊的真理を知る

法華玄義 現代語訳  48

『法華玄義』現代語訳  48

 

第二目 詳細に述べる

妙について詳細に述べるにあたって、大きく分けて三つの見方がある。それは、「迹門の十妙」と「本門の十妙」と「観心の十妙」である。

(注:これより、「妙」について詳しく述べる箇所となるが、この箇所の記述が非常に長く、『法華玄義』全体の約半分を占める。つまり、中心部分となる)。

三蔵教が説かれた鹿野苑の声聞乗・縁覚乗・菩薩乗の三つの麁から始まって、『法華経』が説かれた霊鷲山の一仏乗の一つの妙に至るまで、これらはすべて迹門の中の教えである。この迹門において十項目を設けて妙を述べる。しかし、妙には迹門ばかりではなく本門にもある。本門は元初(がんじょ・すべての始まりという意味)によることである。元初の本妙において十項目を設けて妙を述べる。迹門と本門は教えである。教えによって観心をすれば、観心にまた十項目を設けて妙を述べる。迹門のなかに、衆生法妙・仏法妙・心法妙の三つがあり、迹門の十妙の一つ一つにこの三つがあるので、合わせて三十妙となる。これは、『法華経』以外の経典で妙を説くところと同じところもあれば異なるところもある。同様に、本門にも三十妙があるわけで、これは『法華経』以外の経典とは全く異なっている。迹門の三十妙と本門の三十妙を合わせた六十妙の一つ一つに、相待妙と絶待妙の二つがあるので、合わせて百二十妙ある。麁を破り妙を顕わす(破麁顕妙)ということでは、相待妙を用いる。麁を開いて妙として顕わす(開麁顕妙)ということでは、絶待妙を用いる(注:「破麁顕妙」は、麁を妙と相対するものとして排除して、妙のみを顕わすために「相待妙」である。一方、「開麁顕妙」は麁と妙との相対を超越した妙を顕わすために「絶待妙」である)。

 

Ⅰ.迹門の十妙

 

迹門の十妙とは、①境妙、②智妙、③行妙、④位妙、⑤三法妙、⑥感応妙、⑦神通妙、⑧説法妙、⑨眷属妙、⑩功徳利益妙の十種類である。

そして、この迹門の十妙の解釈において、五つの項目によって解釈する。その五つとは、「Ⅰ.標章」「Ⅱ.引証」「Ⅲ.生起」「Ⅳ.広解」「Ⅴ.権実」の五番である(注:「五重玄義」の各章にあるとされる「七番共解」は、標章、引証、生起、開合、料簡、観心、会異の七つであり、この個所を見れば、一致しているものもあれば省略されているように見えるものもある。しかし、大きな項目としてあげられなくても、たとえば料簡は問答形式で各箇所に多く用いられており、その他も同様に各箇所に散りばめられるように用いられている。このように、実質的には七番共解は五重玄義の中に溶け込むように用いられていることになる)。

 

A.標章(迹門の十妙の各項目の名称をあげる)

①境妙とは、境界(きょうがい・智慧が照らす対象となるもの。智慧が働くためにはその対象が必要である。そのため、「境妙」と「智妙」は密接な関係にある)が妙ということであり、それは、「十如是」「十二因縁」「四諦」「三諦」「二諦」「一諦」として表わされる。これらは仏の師とすべきところであるために、境妙という。

(注:この「十如是」「十二因縁」「四諦」「三諦」「二諦」「一諦」については、後の「広解」において、一つ一つ詳しく述べられるので、ここでは名称だけをあげる。そして、以下同じく「標章」における各「十妙」のところで記される数多くの用語も、「広解」において詳しく述べられるので、やはり名称だけをあげる。いわゆる「標章」とは目次のようなものだと解釈すればよい)。

②智妙とは、智慧が妙ということである。いわゆる「二十智」「四菩提智」「下・中・上・上上」「七の権実」「五の三智」「一の如実智」である。境界が妙であるために、智慧もしたがって妙である。法は常であるために、諸仏もまた常である。蓋と箱がぴったりと一致するように、境界と智慧が共に不思議であるために、智妙という。

③行妙とは、さまざまな修行が妙であるということである。それは「次第の五行」「不次第の五行」である。智慧は修行を導くために、その修行も妙である。

④位妙とは、修行の位が妙であるということであり、「三草位」「二木位」「一実位」のことである。妙である修行の結果であるために位妙という。

⑤三法妙とは、三法(さんぽう・仏教において重要なあらゆる項目を三項目に集約したもの)」が妙ということであり、「総の三法」「縦の三法」「横の三法」「不縦不横の三法」「類通(るいずう)の三法」である。

⑥感応妙とは、「四句の感応」「三十六句の感応」「二十五の感応」「別円の感応」のことである。水は月のある天に上らず、月は水のある地に降りて来ないままで、月は水に映る。同じように、諸仏は人の方に来ることなく、衆生は仏のいる方に行くことなく、仏の慈悲と衆生の善根(ぜんこん・良い結果を生む原因)によって、仏と衆生が感応するために、感応が妙であるという。

⑦神通妙とは、「報の通」「修の通」「作意の通」「体法の通」「無記化化の通」のことである。人々を導く仏の神通力は、何にも制約されず、何の定まった形がないために、人の状況に応じて自由に変化する。遠くても近くても、未熟であっても成熟していても、あるいは道を脱していても、それらはすべての者が仏になるという一乗の教えのためであるので、神通妙という。

⑧説法妙とは、「十二部の法」「小部の法」「大部の法」「逗縁の法」「所詮の法」「円妙の法」を説くことである。真理の通りに完全に説き、すべての衆生を仏の知見に開示悟入させるために、説法妙という。

⑨眷属妙とは、「業の眷属」「神通の眷属」「願の眷属」「応の眷属」「法門の眷属」のことである。曇っている空の月が雲に覆われているように、群臣豪族は仏の前後を囲うように集まっているので、眷属妙という。

⑩功徳利益妙とは、「果の益」「因の益」「空の益」「仮の益」「中の益」「変易の益」のことである。大海が龍の降らす激しい雨を受けるように功徳利益を受けるので、利益妙という。