大乗経典と論書の現代語訳と解説

経論を通して霊的真理を知る

法華玄義 現代語訳  49

『法華玄義』現代語訳  49

 

B.引証(迹門の十妙の各項目について経文を引用しながら論証する)

迹門の十妙の各項目について経文を引用しながら論証するにあたって、ただ『法華経』の迹門の文(もん)を引用するのみであり、本門の文は引用しない。ましてや、『法華経』以外の文は引用しない。その文に「あらゆる存在の如是相などは、ただ仏と仏だけがすなわちよくあらゆる存在の真実の姿を究め尽くす」とある。実相は、仏の智慧の門である。門とはすなわち智慧の対象の境である。また「非常に深い微妙(みみよう)の法は、見ること難しく、究めることが難しい。仏である私と、およびあらゆる方角の仏は、すなわちよくこの相を知る」とある。これはすなわち、①境妙である。

文に「私が得た智慧は、微妙であり最も第一である」とある。また「この妙なる智慧をもって、無上の道を求める。煩悩から離れ、不思議であり、非常に深い微妙の法は、ただ私だけがこの相を知る」とある。これはすなわち、②智妙である。

文に「昔、無数の仏に従って、すべてが備わった道を修行した。このあらゆる道を修行し終わり、道場において悟りを得た」とある。また「合掌して敬う心をもって、すべてが備わった道について聞くことを願った」とある。また「あらゆる存在は最初から常に自ずと寂滅の相である。仏の弟子は、道を修行し終わって、来世で仏となることができる」とある。これはすなわち、③行妙である。

天が四種類の華を降らすとは、菩薩が経る四段階の位を意味し、開・示・悟・入も四つの段階の位の意味である。文に「この宝の乗り物に乗ってあらゆる方角へ遊ぶ」とあり、この「あらゆる方角」とは、因の位である。また文に「ただちに道場に至る」とあるのは、果の位である。これを、④位妙と名付ける。

文に「仏は自ら大乗に住む。その得る真理の教えは、禅定の智慧をもって荘厳となる」とある。「大乗」とは、本来備わっている真理である真性軌(しじょうき)である。「禅定」とは、智慧が働くことを助ける資成軌(しじょうき)である。「智慧」とは、真理を照らす観照軌(かんしょうき)である。この真性軌・資成軌・観照軌の三軌はすなわち、⑤三法妙である。

文に「私は二十一日間、このことを思い続けた」とある。また「私は仏の眼をもって見ると、六道の衆生を見る」とある。また「すべての衆生はみな私の子である」とある。また「遥か遠くに自分の父親が立派な椅子に座っているのを見る」とある。これはすなわち、⑥感応妙である。

文に「今、仏である世尊は三昧(さんまい)の精神統一に入った。これによって不思議であり未曽有のことが現われる」とある。これは、⑦神通妙である。

文に「如来はあらゆる説法を通して巧みにさまざまな教えを説く。言葉は柔軟であり、人々の心を喜ばす」とある。舎利弗は「仏の柔軟な声は、深遠にして大変微妙である」と言っている。また「説法するところの教えは、みなことごとくすべてを知る仏の智慧に至る」とある。また「ただ無上の道を説くのみ」とある。また「過去現在未来において説く教えは、最も信じることが難しく理解することが難しい」とある。これは、⑧説法妙である。

文に「ただ菩薩を教化するのみであり、声聞の弟子はない」とある。これは、⑨眷属妙である。

文に「現在、未来にただ(法華経の)一句一偈を聞くなら、みな将来、最高の悟りを得るという授記を与える」とある。また「一瞬でも(法華経を)聞けば、すなわち最高の悟りを究めることができる」とある。また「もし小乗の教えで人々を教化するならば、私は怠け者となる。そのようなことはあり得ない」とある。また「特定の人にだけ究極的な悟りを得させるのではなく、すべての人々に如来の究極的な悟りを得させよう」とある。これは、⑩利益妙である。

 

C.生起(迹門の十妙の各項目がどのように生じているかについて述べる)

真理の境界は、仏や天や人が作ったものではない。もともと自ら存在し、今始まったものではない。したがって、最初に存在しているものである。この真理に迷えば煩悩を起こし、この真理を理解すれば智慧が生じる。智慧が修行の本である。智慧の目によって修行の足があるのである。智慧の目と修行の足、および境界の三法を乗り物として、それに乗って涅槃に入り、あらゆる位に上る。位はどこにあるのか。それは三法の秘密の蔵にある。この法にあって寂滅でありながら、常にあらゆる世界の人々を照らして、求める者が来れば、かならず感応によって応じる。もし仏の方から人々の所に行くならば、仏の体の各部位を用いて神通を発揮する。その神通を見て、教えを受けるにかなう者ならば、すなわち仏の口の説法をもって教え導く。すでに教えの雨によって潤えば、仏の道を受けて眷属となる。眷属は修行して生死の本を取り除き、仏の知見を開き、大いなる功徳利益を得る。

前の境妙・智妙・行妙・位妙・三法妙の五つは、自らの修行における因果が備わっていることを表わし、後の感応妙・神通妙・説法妙・眷属妙・功徳利益妙の五つは、仏が人々を教化することにおける教化する側と教化される側が備わっていることを表わす。真理の教えは無量だと言ってもこの十妙にすべてが備わっている。自らの修行のことも、他を教化することも、最初から終りまで、すべて究め尽くしている。