大乗経典と論書の現代語訳と解説

経論を通して霊的真理を知る

天台四教儀 現代語訳  16

『天台四教儀』現代語訳  16

 

第四節「円教」

(注:これ以降、化法の四教の四番めである円教の説明となるが、結局、円教が天台教学における究極的な教えであり、ここまでの蔵教・通教・別教とは次元を異にする。そのため、これまでは比較的用語だけを並べるような説明であったが、これからの箇所では教えの内容や行位も含めて詳しい説明となり、内容も長くなる)。

 

次に円教について述べれば、「円」には円妙・円満・円足(円具足の略)・円頓などという意味がある。このために円教と名付ける。いわゆる完全円満という意味であり、煩悩を完全に抑えること、完全な信心、煩悩を完全に断つこと、完全な修行、完全な位、仏の自らの行による完全な荘厳、仏の教化によって衆生が完全に導かれることなどを表わす。あらゆる大乗経論の仏の世界について説く場合、声聞と縁覚と菩薩の三乗と共通しない位についての教えは、すべてこの円教に属する。

(注:円教は、一言で表わせば、すべてを真理において一つとする教えである。これよりは、各経典に表わされた円教を、経文を引用して述べている)。

法華経』の中の「開示悟入」の四字は、円教の十住・十行・十廻向・十地に相応する。これは四十位である。『華厳経』に、「初めて発心する時、すぐに究極的な悟りを成就する。いわゆる仏の智慧そのものの身体は、仏以外のものに依存して悟って成就されるのではない。その清淨であり妙法そのものの身は、ありのままにすべてに遍在して応じている」とある。これは円教の四十二位(上にあげた四十位に、等覚位と妙覚位を加えた円教のすべての行位)を明らかにするものである。『維摩経』に、「薝蔔林(せんぷくりん・薝蔔は大変良い香りのする植物)の中に入れば、他の香りを嗅ぐことはできない(注:どんな香りも、薝蔔の良い香りに混ざってすべて良い香りとなるため)。同じように、仏の室に入る者はただ諸仏の功德の香を嗅ぐ」とある。また、「不二法門(ふにほうもん・真理は相対的(=二)ではなく、唯一絶対的(=不二)であるという教え)に入る」とある。『般若経』には最上乘(最も優れた教え、すなわち三乗ではなく仏乗を指す)を明らかにし、『涅槃経』には一心五行(いっしんごぎょう・五行とは、別教で別々に説かれた五種類の修行であり、聖行・梵行・天行・嬰児行・病行の五つ。『法華玄義』で大変詳しく説かれている。円教ではこれを別々ではなく、一念の中で円融して行なわれるということ)を明らかにしている。また、「ある人が海に入って海水浴をすれば、すでに、すべての川の水に触れていることになる」とある。また『華厳経』には、「娑伽羅龍(しゃがらりゅう)が車軸のような激しい雨を注ぐ場合、ただ大海のみがそれらをすべて受け止めるが、他の地は耐えられない」とある。また、『首楞厳三昧経』には、「すべての種類の香を一つに丸め、そのほんの一部分でも焼けば、一度にすべての香を嗅ぐことになる」とある。以上引用した経文は、すべて円教の教えに属するのである。

今、『法華経』と『瓔珞経』によって、概略的に行位を明らかにすれば、次の八つになる。一つめは五品弟子(ごほんでし)の位であり、これは外凡であり『法華経』にある。二つめは十信の位であり、內凡である。三つめは十住の位であり、聖位の最初である。四つめは十行であり、五つめは十迴向、六つめは十地、七つめは等覚の位であり、修行をする因の位の最後である。八つめは妙覚の位であり、究極的な悟りを得た果の位である。