大乗経典と論書の現代語訳と解説

経論を通して霊的真理を知る

法華玄義 現代語訳  96

『法華玄義』現代語訳  96

 

④.位妙

 

迹門の十妙の第四に、位妙について述べる。真理はすべてに融合し、その智慧が完全に隔てるものがなければ、行は導かれて妙が成就する。すでにここまで述べてきたように、境・智・行の妙が表わされていれば、そこに真理の法理(体)、宗要(宗)、功徳(用)はすべて備わっている。さらにここで位妙を述べるのは、行が昇る場所であるからである。

ただ、位に権と実があり、それは経論に記されている通りである。『成実論』『阿毘曇論』に位について判別されているが、言葉が大いに足らない。『十地経論』『摂大乗論』にも位について判別されているが、一つの立場に偏っていて、他の意義まで行き渡らない。大乗の諸経典に位について明かされている内容については、『瓔珞経』では位の浅深を判別しており、『般若経』に分類される経典類に位について明かされている内容については、『仁王般若経』は詳しく高低を述べているが、まだ麁・妙については述べられていない。

法華経』は位の名称について具体的には述べられていないが、意義としては小乗と大乗を兼ね備え、ほぼ権と実を判別している。しかし、『法華経』の原本はすべて中国に渡っているのではないはずであり、原本には「位」についての記述があると考えられる(注:もちろん実際そのようなものはない)。この『法華経』では、「薬草喩品」にのみ、ただ六つの位について述べられているのみである。その文には「転輪聖王帝釈天梵天は、小の薬草に喩えられる。また、無漏の真理を知って、よく涅槃を得て、一人山林にいて縁覚(注:正確には声聞と縁覚の二乗)の悟りを得るのは、中の薬草である。また釈迦と同じ境地を求め、私も仏になることができるとして、精進と禅定を行じるのは、上の薬草である。また、仏の子と呼ばれるのにふさわしく、心をもっぱら仏道において、常に慈悲を行じ、自ら仏になることについて疑いを持たないことは、小樹と名付けられる。また、神通力に安住して、退くことのない教えを広め、無量億百千の衆生を悟りに導くことは、大樹と名付けられる」とある。さらにその後の文に「ひとつの地から生じる所、ひとつの雨の潤す所」および「今、まさにあなたのために最実事であることを説く」とあることを第六の位とする。

小の薬草・中の薬草・上の薬草の三つの意義は、蔵教の中の位であり、小樹は通教の位、大樹は別教の位、最実事は円教の位である。

(注:これ以降、この六つを大きな項目として、さらに各項目を細かく分けて説明する記述となる。天台教学は、すべての経論を天台大師の悟りの体験に基づいて整然と体系づけるところに特徴がある。他の教学にもそのような面もあるが、天台教学ほど整然と体系づけられているものはない。この行位についても、すべてを網羅した形で体系づけたいところであるが、上に記されているように、どの経論も「言葉が大いに足らない」のである。もし『法華経』の中に行位についての整然とした記述があるならば、もちろん天台大師はその記述に基づいて講述されたはずであるが、実際に『法華経』の中にそのような記述はない。ではなぜそれはないのか、ということについて、天台大師は、これも上の本文の中で、原文にはあったはずである、というようなことを述べているが、もちろん、そのようなものは存在しないのである。そこで、わずかに「薬草喩品」の中に、行の階位に相当するような記述がある、ということで、その記述に基づいて述べていくのであるが、その「薬草喩品」の記述は、言うまでもなく行位についての内容ではないので、無理やり当てはめているという感は否めない。そして結局、表向きには「薬草喩品」の記述によっているように組み立てられていても、実際の内容は、経論の中で、行位について比較的まとまっている『正法念処経』・『阿毘曇論』・『瓔珞経』の行位の分け方を本としている)。

 

a.小の薬草

小の薬草の位には、人、天の二つがある。転輪聖王(てんりんじょうおう・この世における理想的な王を指す)は人主の位、帝釈天梵天は天主の位である。みなその果報によって位が決まる。果の意義に優劣があるので、まさに知るべきである。位の因となる修行には必ず浅深の違いがある。

◎人

人の位の因となる修行は、すなわち五戒を持つことである。略して下品(げぼん)・中品(ちゅうぼん)・上品(じょうぼん)・上上品(じょうじょうぼん)の四品がある。下品は鉄輪王(てつりんおう・鉄輪宝を持つ王で、須彌山をめぐる四大洲のうち、南の閻浮提(えんぶだい)を統治する転輪聖王の一人)となって一つの天下の王である。中品は銅輪王(どうりんおう・銅輪宝を持つ王で、四大洲のうち、二大洲を統治する転輪聖王の一人)となって二つの天下の王である。上品は銀輪王(ぎんりんおう・銀輪宝を持つ王で、四大洲のうち三大洲を統治する転輪聖王の一人)となって三つの天下の王である。上上品は金輪王(きんりんおう・金輪宝を持つ王で、四大洲のうち四大洲を統治する転輪聖王の一人)となって四つの天下の王である。みな散心(さんしん・集中していない心)に戒を保ち、かねて慈悲の心をもって他に勧めて福徳を得させる。このため、報いとして人主・飛行皇帝と呼ばれる。その統治する四大洲はその徳に応じ、その所持する宝は自然に応じて与えられる。