大乗経典と論書の現代語訳と解説

経論を通して霊的真理を知る

種種御振舞御書 その10

種種御振舞御書 その10

 

さて、塚原に論争をするために集まって来た者たちはみな帰ったので、去年の十一月から構想を練っていた『開目抄』という文二巻を記した。これは、もし首を切られても、日蓮の身に起った不思議を留めておこうと思って構想を練っていたものである。この文の主旨は次の通りである。

日蓮によって日本国の存続は決まるのである。たとえば、家に柱がなければ建物として保たれず、人に魂がなければ死人である。日蓮は日本の人の魂である。平左衛門尉はすでに日本の柱を倒してしまった。そのため、今、世の中が乱れて、それということもなく、夢のように偽りの言葉が流れて、北条御一門が同士討ちをし、後には他国から攻められるであろう。たとえば、『立正安国論』に詳しく記した通りである」。

(注:『開目抄』は、何よりも日蓮上人の内省の書である。その日蓮上人の純粋な目は、自らの前世のことにまで及び、ここまでの多くの迫害を受けてきたことを見つめている。そして、これは自らが『法華経』の行者であることの証拠だ、という一つの大きな結論に達している。また、多くの経論の引用と論証をもって、『法華経』の勝れていることを詳しく述べている。この本文に記されているような内容だとしたら、単に『立正安国論』の繰り返しに過ぎないが、もちろん、そのようなことはない)。

このように書き付けて、中務三郎左衛門尉(四条頼基)の使いに持たせた。共にいる弟子たちも、強気な書だと思ったようだが、止める力もなく、そのようにしている間、二月十八日に船が島に着いた。その船が持って来た知らせによると、鎌倉に戦があり、京都にも戦乱があって、大変なことになっているということであった。

六郎左衛門尉はその夜、早舟に乗って一門の者たちを率いて渡って行った。そしての日蓮に手を合わせて、

「お助け下さい。去る正月十六日のお言葉はどうなのだろうか、と疑っていましたが、いくらもたたない三十日の内に符号しました。また蒙古国も必ず佐渡に渡って来るでしょう。念仏する者は無間地獄に堕ちるということも必ずその通りでしょう。もう決して念仏は称えません」(注:日蓮上人は、間違いなく、元寇や北条家の内紛などは、七難の中のこととして『立正安国論』をはじめとして、自ら説いた予言の成就だと信じて疑わなかった。しかし、それらはいわば、たまたまのことであり、この佐渡に元が攻めて来る、ということは起こらず、また元寇自体も、日蓮上人が予言した通りにはならなかった。人々が日蓮上人の言うことに耳を傾け始めたのは、確かに当時は、上人の予言が当たっていると思ったからであり、必ずしも、上人の説く教えを理解したからではない。最も重要なことは、そして日蓮上人も望んでいることは、今でもそれは変わらないが、上人の教えを正しく理解し、その時代にふさわしく応用することである)と言ったので、日蓮は次のように答えた。

「どのように言っても、執権殿たちが受け入れなければ、日本の人々も受け入れないだろう。受け入れなければ、国は必ず亡ぶ。日蓮は未熟な者であるが、『法華経』を広めているのであるから、釈迦仏の使いである。天照大御神八幡大菩薩といえば、この国においては重要な神であるが、梵天帝釈天や、日天月天や四天王に比べれば、小さな神である。と言っても、このような神に仕える者を殺したならば、七人半殺したと同じだと言われる。平清盛隠岐法皇たちが滅んだのもこれである。しかし、日蓮の場合はそれに比べることさえできない。なぜなら、教主釈尊の御使いであるから、天照大御神八幡大菩薩も頭を下げ、手を合せて地にひれ伏すべきことである。『法華経』の行者に対しては、梵天帝釈天はその左右に仕え、日天や月天はその前後を照らされるのである。このような日蓮を受け入れたとしても、粗雑に扱うならば国は滅びるのである。ましてや、数百人に憎ませて、さらに二度までも流罪にした。この国が滅びることは疑いないことであるが、しばらく神々をとどめて、この国を助けてくださいと祈る日蓮がいるので、今までは安穏が保たれていたが、これ以上続けば罰が当たるというものである。また今回も日蓮を受け入れなければ、大蒙古国より軍を向けられ、日本の国は滅ぼされるであろう。これはひとえに平左衛門尉が招いた災いである。あなたとて、この佐渡島とて、安穏ではなくなるはずである」と言えば、非常に恐れて帰って行った。

そして、在家の者どもも、「このご房は神通力をお持ちの人であるのか。あら怖ろしや怖ろしや。もう念仏者に捧げ物をしたり、真言律宗にも供養したりすることはすまい」と言った。念仏者や良観の弟子である真言律宗の者たちは、「この御房は、これらを前もって知っていたのならば、謀叛人の仲間だったのか」などと言った。このようなことがあり、しばらくは世間も静まった。