大乗経典と論書の現代語訳と解説

経論を通して霊的真理を知る

波木井殿御報

波木井殿御報(はきいどのごほう・日蓮上人最後の書状。口述筆記)

 

慎んで申し上げます。

ここまでの道のりは、無事に池上まで着くことができました。その途中、山といい、川といい、それなりに難儀はしましたが、御子息たちに守られて、これと言ったこともなく、ここまで着きました。恐れ入りながら喜んでおります。

後にまた帰りに通る道ではありますが、病の身でありますから、もしものことがあるかもしれません。

しかし、この日本国のどこにおいても身を持て余していたこの身を、九年もの間、帰依されたその御心ざしには言葉もありません。どこで死んでも、墓は身延の沢に置いて下さい。

また、ここまで乗って来た栗鹿毛の馬は、あまりにもかわいいので、いつまでも失いたくないと思います。常陸の湯に行くまで引いて行きたいと思いましたが、もし他の人に取られてはいけない、また引いて行くのもそれなりに大変かと思いまして、常陸の湯から帰るまで、上総の藻原(もばら)殿のもとに預けおきます。しかし、馬の扱いを知らない舎人(とねり・警備や雑用などに従事する者)をつけておくのは心配ですので、帰って来るまで、今までの舎人をつけておきますので、ご了承ください。

このことをお知らせするために申し上げました。

恐れながら、謹んで申し上げます。

 

九月十九日

日蓮

進上 波木井殿 御報

病のため、判形を記すことができません。恐れ入ります。